2017年07月20日 15:00 〜 16:30 9階会見場
著者と語る『日本の戦略外交』鈴木美勝 ジャーナリスト

会見メモ

安倍首相の戦略外交は2016年夏、変質したのではないかと話す。時事通信ワシントン特派員、ニューヨーク総局長、解説副委員長などを経て、専門誌「外交」編集長を約4年間務めた鈴木氏が、日本外交の変遷と、劇的に変化する国際環境下での<安倍戦略外交>について分析した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

安倍外交「権謀術数」への変質に苦言

杉田 弘毅 (企画委員 共同通信社論説委員長)

昨年夏に安倍外交は「変質した」。記者として解説委員として、そして雑誌「外交」の編集長として日本外交のあり方を最前線で追い続けた末の話だから、前かがみになって話を聞いてしまった。

 

変質とは、「地政学的視線に加えて世界史的潮流を読み切って現実的に対応する」戦略的リアリズムから、「狭い政治空間・短射程の時間軸で優位な政局的ポジションを獲得しようとする場当たり的」権謀術数的リアリズムへ、というから厳しい評価である。

 

それでは昨夏に何が起きたのか。鈴木氏は7月の参院選で改憲勢力が3分の2を超したことが大きいという。総裁任期延長のシナリオが動き始め、一方で首相自身に勢いがなくなり、それだけレトリックに頼るようになった。その変化を「満月は必ず欠けるものだ」と形容した。

 

安倍外交の絶頂期は2015年春の訪米と見る。米議会での英語のスピーチや、オバマ大統領を爆笑させた公式夕食会でのユーモアあふれるスピーチ。それは長く日米首脳会談を見てきた私も、日本の首相がここまでワシントンに歓迎されるまでになったのか、と感慨を覚えたものだ。

 

権謀術数外交の象徴は、プーチン・ロシア大統領を相手にした昨年後半の日露外交である。領土の問題は進んでいないのに、経済協力を前のめりにやるという新アプローチが、高揚感を持って語られた。実態は厳しい助言を受け入れない陣立てに変わってしまった。焦点の日中関係にしても、中国側の対日関心がないのに日本側のレトリックが先行し「迫力は感じられない」と。

 

結びで挙げたのは、大平正芳の「権力の本体は術策にあるのではなく、権力者自らの在り方にある」だった。

 

揮ごうは「潔く」。それは自戒というが、もっと幅広い意味を込めに違いない。この揮ごうといい、大平の言葉といい、鈴木氏は保守の人と見た。だからこそ、今の「権謀術数」安倍外交に業を煮やしている。


ゲスト / Guest

  • 鈴木美勝 / Yoshikatsu Suzuki

    ジャーナリスト / Journarist

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