2017年08月07日 14:00 〜 15:45 会見場
記者研修会 パネルディスカッション「防災・啓発とメディア」

会見メモ

司会 瀬口晴義 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

写真右から武田、亘、後藤氏


会見リポート

「防災・啓発とメディア」

●役割狭く捉えず、最大の努力を

犠牲への悔いを考えれば、起きる前の平時の啓発こそがメディアに課された最重要課題である。そのためには自らの役割を狭く捉えていてはいけない。紙面や番組に限定した報道にとどまることなく、地域への「働きかけ」にまで踏み込んだ全社的な取り組みを重ねていくべきではないか。

東日本大震災を経験した被災地の新聞社として、共有してほしい問題意識を冒頭、研修参加者に伝えた。その上で、震災前の防災報道の問い直しから月1度のワークショップ「むすび塾」を始め、5年継続していること、昨年に専任部署として「防災・教育室」を創設し、今年4月には震災の伝承人材を育てるために若者向けの通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」を開講したことなどを報告した。

大がかりな防災キャンペーンを始めた高知新聞、防災ラジオ番組を22年継続する毎日放送、大学や行政と連携した防災懇話会に参加する中日新聞。報告各社に共通していたのは、地域の命に関わる地方メディアの責任と自覚だ。

「災害犠牲回避のためにもっとできることがあるはず」という思いが参加者に伝わったのであれば、研修テーマとして地味な防災啓発を取り上げた意義はあったと思う。

日々の報道現場は多忙で、社内事情からも同様の啓発予算や態勢を組むのは難しく、担当者も次々と変わる中では、企画の継続もままならない―。交流会ではそんな感想も参加者から寄せられた。

報道、編集の枠だけで防災啓発の役割を捉え、自社単独で完結しようとする方向性の限界だろう。

河北新報も含めて報告各社の取り組みは、社内や社外に連携の輪を広げながら巻き込み型で展開されている。メディア同士の連携を大きな推進力にし、関係機関や地域とじかにつながる力を基盤にしている点も共通する。

もしかしたら防災啓発は、メディア本来の機能と可能性が最も試される分野と言えるのかもしれない。「もっとできること」は、まだまだある。

河北新報社防災・教育室長

武田 真一

 

●当事者意識、地域防災にも

やるべきことは多く、責任は重い。でも、個々の報道機関が持つ力は限られている。地方メディアの一員として、まずは防災報道への悩みを正直に伝えよう。そんなことを考えながら臨んだ。

在名古屋のマスメディアと研究者、行政関係者らでつくるNSL(Network for Saving Lives)が発足したのは2001年。阪神大震災を取材した記者有志と研究者が、自然災害から地域の人たちの命を救うためにはどうしたらいいかと話し合い、互いの協力関係を作ることが防災報道のレベルアップにつながると考えた。記者に求められているのは、取材をして情報を伝える立場から一歩踏み込んだ、地域の防災に責任を持つ当事者意識なのだろう。参加を通じてそう考えるようになった。

過去に地震津波の災害を繰り返し受けた東海地方は、南海トラフ巨大地震でも深刻な被害が想定されている。「むすび塾」の出発点には、震災前の啓発報道への真摯な反省があり、地域ではメディアの枠を超えた取り組みが必要だという河北新報の武田真一氏の報告をしっかりと受け止め、今後の活動に生かしたい。

中日新聞社社会部 後藤 厚三

 

●「いのぐ」を命の言葉に

台風の影響とはいえ、パネル討議に参加できなかったことをまずおわびしたい。高知は大きな被害はなかったが、交通機関は軒並みストップとなった。南海トラフが動く「その日」。交通網は至る所で寸断されるに違いない。孤立した古里で一体、何が起きているのか。強風に暴れる街路樹を眺めながら、しばし考えた。

河北新報の「むすび塾」でつながった各社の取り組み。毎日放送の防災ラジオ番組は22年、中日新聞から報告されたNSLも16年以上の歴史を持つ。一方、高知新聞の防災プロジェクト「いのぐ」は始まってまだ1年半。紙面企画のほか、防災について語る「いのぐ塾」や防災記者制度も展開しているが、「生き延びる」という意味を持つ古い土佐の言葉が県民にどれだけ認知されたかと問われると、いささか心もとない。

人口減少という時代の傾斜の中で南海トラフは必ず動く。それまでに死語に近かった言葉に再び命を吹き込み、人と地域の「命をつなぐ」取り組みにまで広げていくには、今後も各地のメディアや被災者の皆さんから学び、県民と共に地道な活動を続けていくしかないと考えている。

高知新聞社地域読者局次長 石川 浩之

 

●22年の重み

阪神・淡路大震災をきっかけに22年間続く防災ラジオ番組「ネットワーク1・17」のプロデューサーとして参加した。活字メディアの記者が多く、ラジオがどんな防災報道をしているかを伝えるのは難しいと思ったので、前日に放送したばかりの「九州北部豪雨1カ月」の現地リポートや、東日本大震災発生直後の災害リポーター(宮城県気仙沼市在住)の電話リポートの音声を、実際に聞いてもらいながら進めた。

多くの人から質問されたのは、「なぜ毎日放送は、この番組を22年も続けることができたのか」ということだった。「強力なスポンサーがいるのか」「番組立ち上げから関わり続けている出演者やスタッフがいるのか」など尋ねられたが、「いない」としか答えられない。私自身は6年前からスタッフに加わった。「毎日放送のラジオ局でずっと受け継がれてきたDNAみたいなものでしょうか」と苦し紛れに答えた。「命を守る報道ができていなかった」という22年前の厳しい反省。さまざまな危機があったものの、「伝えることをやめてはいけない」という思い。受け取ったバトンの重さを改めて感じた。

毎日放送ラジオ局制作センター

亘 佐和子


ゲスト / Guest

  • 武田真一

    河北新報社防災・教育室長

  • 後藤厚三

    中日新聞社社会部デスク

  • 石川浩之

    高知新聞社地域読者局次長

  • 亘佐和子

    毎日放送ラジオ局編成センター記者

研究テーマ:パネルディスカッション「防災・啓発とメディア」

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