2017年05月10日 15:00 〜 16:15 10階ホール
「トランプ政権:米国と世界の行方」8 ーウォール街からみるトランプ政権の評価ーポール・シェアード S&Pグローバル チーフ・エコノミスト 

会見メモ

「米国と世界の行方―ウォール街からみるトランプ政権評価」と題して、エコノミストの立場から光と影を語った。トランプ政策へのウォール街の期待は依然大きいとの見方を示し、「貿易戦争までは進まない」「TPP離脱はあまり悲観的になる必要はない」

 

司会 播摩卓士 日本記者クラブ企画委員(TBSテレビ)


会見リポート

危惧はあるけど… 基本は「楽観」「強気」

大石 信行 (日経CNBCチーフ・デジタル・オフィサー、シニアコメンテーター)

「楽観」「強気」――。トランプ大統領率いるアメリカ経済に対するシェアード氏の見方をシンプルに要約すると、この二言ではないだろうか。

 

ウォール街にとっても、「まさか」のトランプ大統領誕生。しかし、減税・インフラ投資・規制緩和といった経済政策への期待から「トランプ・ユーフォリア」といえる状況が続き、ダウ工業株30種平均は2万ドルを突破。トランプ氏の負の側面は見て見ぬふり。そんなウォール街の雰囲気が、シェアード氏からも感じられた。

 

S&Pは2017年の米国経済の成長率を2.3%、来年は2.4%と見込んでいる。もっとも見通しにはトランプ効果はほとんど織り込んでいない。同大統領は10年で1兆ドルのインフラ投資を掲げているが、「トランプ政策が大々的に動き出せば、それぞれ2.7%、2.8%に上方修正する用意がある」という。

 

保護主義的な動きについても、「貿易戦争まで進まないという安心感が(ウォール街には)ある」。 シェアード氏の指摘で興味深かったのは、トランプ大統領が進めようとしている北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しは「NAFTAの近代化」であり、その手本となりそうなのが環太平洋経済連携協定(TPP)という点である。もしかすると、近代化されたNAFTA がTPPに合流する可能性もあるといい、米国のTPP離脱について「あまり悲観的にならなくてもいい」。

 

「楽観」「強気」のシェアード氏だが、トランプ政策の整合性には危惧も。トランプ大統領が問題視する米国の貿易赤字や経常赤字。しかし、経済学的に見れば、大減税とインフラ投資、そして、経常赤字の削減は同時に実現できない。大々的な投資をやるなら、必然的に経常赤字が悪化し、ついには「日本が悪い、中国が悪いと攻めてくる」可能性があるという。

 

実はシェアード氏はオーストラリア出身。私は2000年のシドニー五輪をまたぐ形でシドニー支局長を務めたが、なんと豪州経済は、それ以前から現在にいたるまで景気拡大を続けている。「米経済の景気拡大が8年間続いているからそろそろ不況という論理は正しくない。豪州は25年間、景気拡大が続いているのだから」。FBI長官解任問題など不透明感は相変わらずあるものの、そんな「まさか」をちょっと信じたい気持ちになった。


ゲスト / Guest

  • ポール・シェアード / Paul Sheard

    アメリカ / USA

    S&Pグローバル エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・エコノミスト / Executive Vice President and Chief Economist, S&P Global

研究テーマ:「トランプ政権:米国と世界の行方」

研究会回数:8

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