2017年02月17日 18:00 〜 19:45 10階ホール
試写会「わたしは、ダニエル・ブレイク」

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会見リポート

困窮を救うのは政治か人の善意か

西島 雄造 (読売新聞出身)

ダニエル・ブレイク、59歳。40年間、大工仕事をまじめにこなし、税金もきちんと納めてきた。後年は妻の介護に明け暮れた。その妻に先立たれたばかりか、自身も心臓を病む。医師に働くことを禁じられ、雇用支援手当を受けていたが、継続審査で就労可能手当中止の通知書を受け取る。

 

職業紹介所で2人の子どもを抱えた若い母親と出会う。18歳で男と一緒になり、2人の男との間にそれぞれ娘と息子をもうけた。ロンドンのホームレス宿泊所で暮らした後、イングランド北東部のニューカッスルにやってきた。

 

今日の食事にも事欠き、母親は自分の口に入れるものを削って子どもに食べさせる。フードバンクで日用品や食料をもらう。市場で流通できなくなった品々を企業に寄付してもらい、慈善団体が支給している。

 

描かれていることは、どれも事実に即している。英国はデーヴィッド・キャメロン政権になって緊縮財政と増税に踏み切る。児童手当の凍結や教育手当の廃止など、社会保障費や公共サービスを削減する。カップルに一部屋以上の寝室がある場合は残りの部屋に寝室税を課した。雇用生活補助手当なども簡素化を図り、受給者の就労を促進させた。職業安定所の面接に遅刻しただけで罰を課す。最貧困家庭の状況は悪化し、フードバンクには支援を求める人が殺到、ホームレスも増えたとの新聞報道さえある。

 

歯がゆいばかりのお役所仕事が描かれる。地上には多くのダニエル・ブレイクがいる。救済するのは政治か人の善意か。「慈善では解決しない。政治のシステムを変えることだ」というケン・ローチ監督、優しい眼差しを注ぐ作品が多いが、今作には怒りが見える。第69回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた。


ゲスト / Guest

  • わたしは、ダニエル・ブレイク

    I, Daniel Blake

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