2016年12月01日 15:30 〜 16:30 9階会見場
チノイ・インド駐日大使 会見

会見メモ

日印原子力協定に署名したばかり。「インドは核軍縮と核不拡散を守ってきた記録がある」とまずは公式論。その上で「農村の余剰人口の働き口を工業化で用意する。パリ協定を守るには再生可能エネルギーを増やす」。だから原発がいる、という必要論をどう聞く。

 

司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

日印「関係強化」の行方は?

岩佐 淳士 (毎日新聞社外信部)

日本とインドは11月、モディ首相の来日に際し、インドは日本からの原発輸入を可能にする原子力協定を締結した。12月1日に日本記者クラブで会見したインドのチノイ駐日大使は原発による「クリーンエネルギー」の重要性を強調し、協定の意義を訴えた。

 

経済発展に伴いインドでは農村部から都市部に労働者が大量に流入。大使は「彼らに職を与えるために大量のエネルギーが必要だ」と述べたうえで、地球温暖化対策の新国際枠組みである「パリ協定」に批准したことにも言及した。インドは温暖化対策に原発増設が不可欠との立場だ。

 

インフラ輸出を成長戦略の柱に掲げる日本の安倍政権にとっても、協定締結は1つの「成果」と言える。インドでは、ムンバイ―アーメダバード間(505キロ)を結ぶ高速鉄道計画で日本の新幹線方式の採用が決まっている。

 

しかし、核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、核兵器を保有するインドへの原発輸出に対して、原子力の軍事転用など懸念は根強い。チノイ大使は会見で「核軍縮についてインドは非の打ち所のない取り組みを行ってきた」「NPTには未加盟だが、その精神は実行してきた」と強調したが、質問者からは平和利用に関する取り決めが「あいまいだ」との指摘があった。協定締結に際しては「インドが核実験を行えば協定を停止する」との方針を別文書で確認したが、インドは1974年に核実験を実施した際、大規模土木工事などを目的とした「平和的核爆発」と主張した経緯もある。

 

一方、日本には原子力協定を弾みに日印関係を安全保障面でも強化し、中国をけん制する狙いがあるとみられる。スリランカなどで港湾工事をすすめ、インド洋で海上交通路を整備する「真珠の首飾り」戦略を進める中国に対しては、インドも警戒心を強めている。だが、伝統的に非同盟路線を取るインドが「中国包囲網」にどこまで協力するかは不透明だ。在北京大使館勤務など10年間の中国滞在経験があるチノイ大使は「日印関係はそのほかの国との関係からは独立している」と述べたうえで「最大の隣国である中国ともいい近隣関係を結ぶということで絆を築いている」と強調した。

 

モディ首相の出身地グジャラートは、世界を股にかけた「グジャラート商人」で知られる。日印の協力関係強化には期待したいが、交渉相手としてはかなり手強い印象だ。


ゲスト / Guest

  • スジャン・チノイ / Sujan R. Chinoy

    インド / India

    駐日大使 / Ambassador to Japan

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