2016年11月02日 14:00 〜 15:00 10階ホール
髙津克幸 にんべん社長 「チェンジ・メーカーズに聞く」⑪

会見メモ

創業1699年(元禄12年)以来、鰹節やだしの商いを続ける老舗企業。300年以上の長い歴史を刻んできた歴代当主の知恵や工夫、新機軸を打ち出した最近の事業展開などについて、13代当主が語った。
にんべん
司会 水野裕司 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

「第4の革新」に挑む老舗~変化対応力が問われる

水野 裕司 (企画委員 日本経済新聞社論説副委員長)

「ファミリービジネス」とも呼ばれる同族経営の会社は、世界の企業数の8割を占めているといわれる。それだけ経済に根を張っているといえる。何百年もの長い歴史を持つ会社が多いのもファミリービジネスの特色だ。「チェンジ・メーカーズに聞く」シリーズもこうした老舗の企業の経営に着目。7月の黒川光博・虎屋社長に続き、かつお節とその加工食品を製造販売する「にんべん」の髙津克幸社長に、歴代トップの経営革新や現在打ち出している新機軸について語ってもらった。

 

長い社歴を刻んできた老舗企業には、必ずといっていいほどイノベーションの歴史がある。にんべんの創業は1699年(元禄12年)。300年を超える歴史を永らえてきた理由として、髙津社長は、「3つの革新があった」ことを挙げた。

 

第1は、初代による「現金掛け値なし」の商法。それまでの掛け売りと比べ、商品と引き換えに代金を支払ってもらうことで価格を安くできた。呉服店の「越後屋」などとともに、「現金掛け値なし」は新興商人が古くからの商家をしのぐ原動力になった。

 

第2は、世界初ともいわれる商品券の発行。現在なら3300円ほどの価値がある二匁(もんめ)相当の小さな銀の薄板を、1830年代(天保期)に考案した。かつお節1~2本と交換できたという。「先に代金をもらうことでキャッシュフローを改善できた」

 

そして第3が、幕末・維新の激動期の「本枯れ」かつお節の開発。カビ付けによって、うまみを増した製法で、現在もにんべんの商品を支える技術になっている。

 

ほかにも、かつお節を削って小分けし、削る手間を省いた「フレッシュパック」や、かつお節から「だし」をとって様々な料理に用途を広げた「つゆの素」など、時代の変化に合わせた商品づくりを続けてきたという。

 

問題は経済の構造変化が進むなかで、どのようにして会社を成長軌道に乗せていくか。にんべんの経営にとって重しになっているとみられるのが原料高とデフレだ。かつお節の原料のカツオは新興国の需要増などを背景に高値傾向にある。デフレの出口がいまだにはっきりせず、かつお節も加工食品も、いかに消費を喚起するかはこれまで以上の課題になっている。

 

髙津社長は社長就任の翌年の2010年、日本橋のコレド室町ビルに、だしを飲める「日本橋だし場」を開設した。かつお節からとった本物のだしのおいしさを伝えようとの狙いからで、値段は「カップ一杯100円」。通りがかりのサラリーマンや買い物客らに人気だ。2016年6月末、累計70万杯を達成。「日本橋だし場」は「一汁一飯」をコンセプトに、汁物、かつぶしめし、総菜、弁当などのメニューも用意する。「消費者に、伝統の食文化に目を向け直してもらいたい」との思いがある。

 

「かつお節のだしが合う料理は和食だけではない。チキン、トマト、チーズなど、洋風料理やエスニックとの融合によって、新しいものが出せたり相乗効果が得られたりする」。「第4の革新」に向けたチャレンジが、佳境に入ろうとしているようだ。


ゲスト / Guest

  • 髙津克幸 / Katsuyuki Takatsu

    日本 / Japan

    にんべん社長

研究テーマ:チェンジ・メーカーズに聞く

研究会回数:11

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