2016年03月02日 16:00 〜 17:30 10階ホール(AC)
「変わるアメリカ・変わらないアメリカ 米大統領選」②反知性主義 森本あんり 国際基督教大学教授

会見メモ

昨年『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を出した森本あんり教授が、米大統領選の底流にある変化と継続について話し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

トランプ人気を生んだ米国の「反知性主義」

大木 俊治 (毎日新聞社論説委員)

『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』というタイトルにひかれてたまたま買った本を読んで、米国政治が門外漢の私も引き込まれてしまった。その著者である森本さんによる米大統領選の解説もまた、期待を裏切らないおもしろさだった。

 

会見はちょうど予備選最初の山場、スーパーチューズデーの翌日。「メキシコ国境に壁を作って移民を締め出せ」「イスラム教徒の入国を禁止せよ」などと数々の暴言を吐いてきた実業家のドナルド・トランプ氏が11州のうち7州で圧勝し、共和党の候補者選びでさらに優位を固めた。米大統領にはおよそふさわしくないと思える彼のような人物に、米国民はなぜ熱狂するのか。

 

疑問を解き明かすカギとして森本さんは、米政治史の転換期に登場する「反知性主義」の伝統を挙げる。それは単なる大衆迎合のポピュリズムではなく、権力と結びついた知的エリートに対する大衆の反発だ。古くは20ドル紙幣の「顔」として今も人気の高い19世紀のジャクソン大統領。戦後もアイゼンハワー大統領、レーガン大統領、ジョージ・W・ブッシュ大統領など、大衆の支持を得たいわば政治の素人が、「主流派」の知的エリートを下して政治をリセットする歴史が繰り返されてきたという。「トランプ現象」もまた、米国の政治指導力に陰りが見える中で、きれいごとばかり言って何もできない政治エリートに対する大衆の反発の表れなのだと考えれば納得がいく。

 

もう一つ、トランプ人気が「この世の成功は神の祝福の証し」という米国独特のキリスト教の論理に裏打ちされているという説明も興味深かった。①神は従う者を祝福する②ところで自分は成功している③従って自分は神に認められている--という単純な「三段論法」には笑ってしまったが、それゆえに自力で富と名声を築いたトランプ氏のような人物がキリスト教保守派の支持も得られるのだという。「成り上がり」を軽蔑しがちな日本とは真逆の精神風土も「トランプ現象」の背景にあるのだろう。

 

一方で森本さんは、トランプ氏の危険性も指摘した。政治の素人だったジャクソン大統領は、19世紀の連邦国家形成期の米国だったからこそ成功した。だが国際情勢が複雑化し、また米国の爛熟期である現代で、同じような成功は保証されない。たとえばトランプ氏が仮に当選すれば最高司令官になる。潜在権力である軍と衝突する恐れがあり、軍事大国となった米国でそれを実験するのはあまりに危険だという指摘は重い。

 

ところで世界を見渡せば、知的エリートへの反乱は米国だけにとどまらない。欧州では反統合、反移民の極右勢力が台頭している。「これも反知性主義で説明できないか」と質問したところ、「もともと階級社会だった欧州と、見かけ上は平等だった米国とは土台が異なる。権威に対する反発は全世界で起きているが、欧州では米国のような『反知性主義』とは違うチャンネルがあるのではないか」と、学者らしい慎重な回答だった。


ゲスト / Guest

  • 森本あんり / Anri Morimoto

    日本 / Japan

    国際基督教大学教授 / Professor, International Christian University (ICU)

研究テーマ:変わるアメリカ・変わらないアメリカ 米大統領選

研究会回数:2

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