2016年02月08日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「台湾総統選を読み解く」 小笠原欣幸 東京外国語大学准教授

会見メモ

東京外語大の小笠原欣幸氏が1月16日に行われた台湾総統選挙、立法員選挙を分析し、記者の質問に答えた。
司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

国民党の歴史的役割終了

川瀬 真人 (中日新聞東京本社編集委員)

会見2日前に発生した台湾南部地震の被災者に「お見舞い申しあげます」と切り出した。豊富な選挙データと現地を歩いて得た詳細な事例が40枚のパネルにまとめられ、非常に分かりやすく説明が進められた。

 

「台湾総統選挙を読み解く」と題されているが、会見の重心は総統選だけでなく同日開票の立法委員(国会議員)選にも大きな重点が置かれていた。定数113のイスを争い、最大野党の民進党が68議席を獲得し初の単独過半数となった。一方、与党・国民党は現有64議席から35議席に大きく後退。2014年のひまわり学生運動を背景に生まれた新党「時代力量」が5議席を獲得し第3党となった。

 

総統選で民進党の蔡英文主席(59)が国民党の朱立倫主席(54)を破っただけでなく「国会の過半数を伴う初めての政権交代」と強調。さらに「国民党の歴史的役割が終了した」歴史的な選挙と位置づけた。今後の国民党の命運については、戦後台湾を支配・統治してきた役割を終え、立法院で3分の1政党となり中国共産党と連携して台湾の選挙を戦う政党になっていくとの見通しを示した。

 

総統選では有権者1800万人の中、蔡氏が朱氏に300万票もの大差をつけた。過去3回の立法委員選選挙区の政党得票率の推移、各選挙区の分析などから地盤、資金、路線、人材のどれをとっても「国民党が再起するのは非常に難しい」と言い切った。経済を重視し対中接近をはかり、中国に取り込まれた、とみられている国民党の馬英九総統。一方、自分を台湾人とみなす台湾アイデンティティーの広がりを巧みにすくい取るとともに地道に選挙基盤を築いていった民進党が支持を大幅に伸ばした。2018年の統一地方選、20年の総統選でも、この流れは変わらないとみている。

 

最も注目される今後の対中関係については、「一つの中国」で一致したとする「1992年合意」に関する質疑応答の中で触れた。「習近平国家主席には習主席の政治スケジュールがある」。来年秋に5年に一度開かれる共産党大会などで「台湾関係の報告で、(習国家主席は)両岸(中台)関係について、むちゃくちゃになっていると報告するわけにはいかない。何らかの形で前向きに進んでいると報告したいはず」と話し、さらに中国の学者の言説を引き合いに「前途は開けている」との見方も紹介。蔡氏の総統就任式が行われる「5月20日まで(中国)は圧力をかけ続けるだろう。蔡氏の出方を見守りながら現実的な折り合いを見つけ出していく」「中国は南シナ海その他の大きな問題を抱えていますから、ここで、さらに台湾と事を構えて日米との関係をギクシャクしたくない。ボールは習近平側にある。出方を見たい」と答えた。


ゲスト / Guest

  • 小笠原欣幸 / Yoshiyuki Ogasawara

    日本 / Japan

    東京外国語大学准教授 / Associate Professor, Tokyo University of Foreign Studies

研究テーマ:台湾総統選を読み解く

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