2016年01月13日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「2016年経済見通し」①早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェロー、元日銀調査統計局長

会見メモ

元日銀調査統計局長の早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェローが「2016年経済見通し:転機を迎えたアベノミクス」と題して話し、記者の質問に答えた。
司会 実哲也 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

アベノミクスは息切れ 牽引役なしの世界経済

続く「ぬるま湯」状態

 

2016年の日本経済、世界経済は株安と原油安という激しい市場の動きで始まった。

 

国内経済は「緩やかな回復」と見る向きは多いが、「アベノミクスの息切れは明らかになった」と大半の識者は一致する。一方、世界経済は21世紀に入ってから牽引役を担ってきた中国が減速に向かい、不透明感が増している。

 

日銀出身のエコノミスト・早川英男氏は、日銀の異次元緩和は「短期決戦の陣立てだったが、長期戦が必至」と、アベノミクスは転機を迎えたと主張。ただ企業収益は過去最高で、労働市場は完全雇用状態である。早川氏は「内需が自律的に悪化する理由はない」とみて、「16年度の成長率は1%台で、日本経済は『ぬるま湯』状態が続く」と言う。「ゆでガエル」になる前に日本企業は世界的なイノベーションの波に乗り遅れないようにしなければならないが、「日本企業の影は薄い」と心配顔だった。

 

海外メディアの風刺画を使って国際経済を解説する渡辺博史氏。今年を「統合、グローバリズムが進み世界が一体化する流れが逆流する転換点」と位置づけた。難民問題で欧州には遠心力が働き、ドイツのメルケル首相のリーダーシップも低下気味。米、仏では排外的な主張をする政治家が台頭し、物事を決められない「決定の空白」が起きる可能性もある。渡辺氏は8年前の米大統領選の際にも「決定の空白」が起き、リーマンショックへの対応が遅れたと指摘、「今年はその再来か」と懸念を示した。懸念材料の中国は成長率が下がることを前提に「3、4年で底打ち。その後回復するのでは」と中期的に低迷の時代へ入ると見通した。

 

エコノミストの武者陵司氏は「米国は明るく、中国は暗いが、日本は飛躍期の入り口に」と楽観論を披露。中国経済が落ち込んでも米国経済が堅調なら、日本経済も強いという主張だ。「アベノミクスの息切れは明らか」としながらも、さらなる緩和で円安期待を定着させることが必要と異次元緩和の継続を求めた。武者氏はアベノミクスが企業のアニマルスピリッツを刺激する効果はあったと評価。企業行動も変化し、「『稼ぐ力』は十分にある」と話したが、やや強気で楽観的だったのが気になった。

 

地方をくまなく回る藻谷浩介氏と中小企業の現状を詳しく知る山口義行氏に共通するのは「現場に解はある」という現場主義。アベノミクスが円安、株高をもたらし、都市部では「資産効果」が生まれているという通説を統計数字で否定してみせた藻谷氏。「空き家が一番多いのはどこ?」と問いかけ、「実は東京」とニヤリ。「田舎では?」と思い込む「常識」が政策や報道をゆがめると説いた。アベノミクス批判派といわれる藻谷氏だが「安倍首相が女性活用や賃上げを求める点は全く正しい」と話し、若い女性が働き、出生率を高くし、若者の所得を増やすことが日本経済の成長につながると力説した。

 

山口氏は例年年初に常に高めに出る政府やエコノミストの経済見通しを「中小企業経営者は違和感と不信感で見ている」と述べ、中小企業の景況感は厳しいと言う。ただ厳しい状況下でも「市場の壁、地域の壁、人手(不足)の壁を越えていく経営者はいる」と話し、「隣接異業種」との連携の重要性を指摘した。人手不足の左官業でイノベーションを起こした中小企業など具体的な事例を紹介した。日本の現場は捨てたものではない。「『現場』をもっと伝えてほしい」。山口氏の記者への注文だった。

 

企画委員 朝日新聞社編集委員
安井 孝之

 

(この会見リポートは、研究会「2016年経済見通し」1月開催分の統合版です)


ゲスト / Guest

  • 早川英男 / Hideo Hayakawa

    日本 / Japan

    富士通総研エグゼクティブ・フェロー、元日銀調査統計局長 / Executive Fellow of Economic Research Center of Fujitsu Research Institute

研究テーマ:2016年経済見通し

研究会回数:1

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