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古里のために(中国新聞社 江種則貴)2018年2月

古里での暮らしは、時間がゆっくりと過ぎていくのだろう。福島県出身の田中俊一氏の表情は、原子力規制委員長として度々ニュースに登場していた頃に比べ、ずいぶん穏やかそうに見えた。

 

口調はもちろん、以前と変わらず鋭い。「食品の安全について、まっとうな学者はいないのか」「放射能というだけで必要以上に騒ぐのはメディアをはじめ日本の特性だ」。厳格すぎる食品摂取基準が農業や酪農の再生を妨げ、復興・再生の障害となっている現状を大いに憤慨する。

 

「事故がもたらした最も深刻な問題はコミュニティーの崩壊」と考える。昨年12月から飯舘村に暮らすのも、人と人との絆を結び直すために自らも一役買いたいとの思いからであろう。村から復興アドバイザーに任命され、帰還した村民からさまざまな相談を持ちかけられる日々。「『昔に戻せ』ではなく、前向きに新しい村づくりを考えるしかない」「生きる力を持った子どもを育てたい」。熱気あふれる言葉が続いた。

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