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私の8月15日 武士の魂を樹海に落とした男の告白(牧内 節男)2015年8月

その日、西富士野営演習場に居た。陸軍士官学校59期・歩兵科の士官候補生たちは演習本部前に集合した。時に正午。ラジオの玉音放送は聴き取れない。敗戦の詔勅であるのは理解できた。嗚咽・慟哭。不謹慎にも私はほっとした。

 

実は2日前に富士の樹海での“挺身斬り込み”の夜間演習で指揮刀をなくした。低い松の木の下に身をかがめ木の根や岩につまずき敵陣に近づき斬り込む訓練。鞘だけが残り刀身がないのだ。翌日、同期生と樹海を探したが見つからなかった。武士の魂をなくせば「重営倉」と覚悟した。その日も朝から探しにいくことになっていた。詔勅を聞いて重営倉をまぬがれたと思った。途端、涙があふれ出た。生き恥をさらし奮闘した戦後であった。

 

(毎日新聞出身 89歳)

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