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目立つ中韓企業の進出(副団長:齋藤 雅俊)2008年2月

  シェムリアップの空港から町に向かう国道の両側にはライトアップされた豪華なホテルが並んでいた。20年前に取材で訪れたときにはホテルが一軒あっただけで、観光客など皆無。それどころかポルポト派の残党が攻撃を仕掛けてくるかもしれないと脅かされたのを記憶している。  

  国の宝アンコールワットを擁するこの町は観光が主な収入源で、観光客は昨年だけでも200万人に上った。芝の美しい公園や鮮やかな黄色で統一されたニュータウンも整備され、不動産価格はうなぎ上りで、中心部なら土地1平米当たり10万円以上はすると、ガイド役の青年が話していた。ちなみに高校の先生の月給は6千円程度だという。

  土地バブルの様相は首都プノンペンでも同じで、地価はこの5年で10倍に跳ね上がっている。その担い手として近年特に目立つのは韓国と中国の企業だという。現在、中心部に計画が進んでいる42階建ての高層ビルはそのシンボル的な存在で、下層階はショッピングモール、上層階は高級レジデンスになるらしい。その開発を手がけているのもやはり韓国のデベロッパーだ。ある日本企業の駐在員は、鋼材の急激な値上がりで結局着工できないのではないかと冷ややかに見ていたが、たとえ着工できなくとも、安値で取得した土地の転売で損はしないというしたたかな計算も透けて見える。

  プラシット商業相は会見で「日本企業は調査や検討に時間をかけて慎重に考える。もう調査も十分だろう」と苛立ちの混じった期待を表明した。
 
  日本企業が持っていたかつてのダイナミズムは、企業の成熟とともに失われつつあるのかもしれない。そしてそれは日本社会全体にも当てはまるのではないか。おびただしい数のバイクを横目に、そんな思いを強くした。

                                (日本記者クラブ会報2008年4月号から転載)

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