取材ノート
ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。
人生初の東南アジアで・・・(中本 智代子)2008年2月
一番思い出に残っているのは、アンコールワットでも、サマック首相との会見でもありません、ごめんなさい。
その出来事はカンボジア・プノンペンの空港で起きました。
タイに向かうため、出国手続きを済ませ、あとは出発までビールを飲むだけ。と、思った時・・・「携帯電話がない!!」
自分の携帯番号をダイヤルすると、片言の英語で「私はタクシーのドライバー。携帯は私の車の中にありました」とのこと。どうやらプノンペンのホテルから空港まで乗ったタクシーに落としてしまったようです。
聞くと、タクシーは市内に戻ってしまったとのこと。夕方のラッシュ時、市内から空港は30分余り。
フライト時間まではあと45分しかありません。
なんとか「大至急、空港まで電話を届けてください!!」と伝え・・・そしてそこからが感動の連続だったのです。
出国手続きも終わってしまったので普通なら空港の外には出られないはず。事情を説明すると、係官のおじさんは笑顔で「いいよ、出ても。見つかると良いね。大きいバ
ッグは重いから預かってあげるよ」とあっさりOKしてくれたばかりではなく、優しい心
遣い。
そして空港の外で待つこと30分、なかなかタクシーのドライバーは現れません。焦りは募るばかり。フライト時間が刻々と迫ってきます。
フライトまであと5分に迫ったとき、ようやくドライバーさんが登場!事情を聞くと、「ぼくの車で来る と12ドルかかっちゃうから、友達のバイクタクシーに乗り換えて来たんだ。だから3ドルでいいよ」と笑 顔。再び、出国審査に戻ると、係官が「見つかったの?良かったね。」とまたまた温かい笑顔。
思い起こせば、人生初の東南アジアは行く先々で人々の笑顔に救われました。プノンペン市内を案内してくれたトゥクトゥクの運転手さん。「生活は厳しいけどボランティアで孤児院の英語の先生をしているんだ」と誇らしげな笑顔で語りながら一生懸命、町を紹介してくれました。
タイの日系工場で働く女性は「給料安いけど、社長ココロ優しい。だからずっと働く」と天使のようなスマイル。
「私もこれからは笑顔で!」と心に誓ったはずだったのに、せわしい東京の生活に戻り、道ですれ違った人の肩がぶつかるとついつい睨み付けてしまう自分がいます。その度に自己嫌悪に陥っている今日この頃です。