会見リポート
2025年04月25日
15:00 〜 16:30
10階ホール
「トランプ2.0」(7) 塩野誠・地経学研究所経営主幹
会見メモ
第2期トランプ政権の発足から3カ月がたった。「トランプ関税」をはじめトランプ政権の政策に世界が翻弄され、安定した国際秩序を前提としたビジネスが成り立たなくなっている。
グローバル企業の経営者などに「地経学」の観点からアドバイスをしてきた塩野誠さんは、「トランプ関税」により米国は自国とドルへの信認が棄損されているだけでなく、ポルトガル、カナダが米国からの戦闘機の導入を見直すなど「安全保障上の信用も棄損されている状況にある」と説明。トランプ政権の政策は「トランプ大統領の信念と独自の歴史観で動いている」ものであり、経済合理性で理解できるものではないと解説した。
今後どうすればいいのか。日本は「ミドルパワーの国として国際秩序と貿易ルールの回復に貢献すべき。価値観を共有できる欧州の国々、東南アジアと協調できる」。日本企業に対しては「条件反射的に拙速に動くべきではない」。一方で、米国の「忘れ去られた人々」である白人労働者層が、自分たちの「復讐」を代わりに行ってくれているトランプ大統領を支持するというトレンドは長期的に続くとの見方を示し、「体力のある企業は、事業を展開する地域をある程度分散しないと一網打尽になる」と警鐘を促した。
司会 今井純子 日本記者クラブ企画委員(NHK)
会見リポート
日本は「ミドルパワー」自覚し実利を
堀 義男 (時事通信出身)
安全保障や経済で緊密な米国との向き合い方に関し、「(トランプ政権に)正しいことを言っても意味がない」と突き放し、日本は「二枚舌、三枚舌」で米国にいい顔をしてでも、実利を取るようにと促した。
実利には、日本が世界の中で「ミドルパワー」であるとの自覚と、国際社会における信頼が高まっているという自信を持って、アジアや欧州など諸外国との関係を一層深化。それを通じて、国際秩序や自由貿易体制の維持に貢献することも含まれる。
塩野氏は、トランプ氏が世界にメリットのまったくない政策を採るのは合理性ではなく、信念と独自の歴史観で動いているためだと指摘する。これに対し金融市場は「トリプル安」で反応し、基軸通貨ドルへの信認が揺らぎ始めた。塩野氏は、米国が海外資金の調達難から、長期金利が今後上昇する恐れを挙げた。
一方で、日本経済を支える自動車産業も、ソフトウエアが車の大きな価値を占める「SDV」と、電気自動車(EV)への移行という構造転換期を迎えた。そのさなかの自動車関税は大打撃だと懸念を示した。
ただ、米国の白人労働者層は、トランプ氏がリベラルエリートから忘れ去られた自分達の「復讐」を行っていると受け止め、支持し続ける。塩野氏はこの構図は簡単には崩れないとみており、トランプ氏による早期の政策変更は期待できそうにない。
米国が国際秩序のリーダーとしての信認を取り戻すのは難しく、その間隙を突いて中国が「いいとこ取り」的に存在感をアピールし始めた。民主主義を基盤とした国際秩序と、「自由で公正」な貿易体制に支えられてきたビジネス環境は、大きな変化に見舞われている。
これを受け日本企業も取締役会で、地政学に経済の視点を組み合わせた地経学問題を議論するようになった。塩野氏は、経営者が地経学リスクを「知らなかった」と言い訳できない時代に入ったと警鐘を鳴らしている。
ゲスト / Guest
-
塩野誠 / Makoto SHIONO
地経学研究所経営主幹、経営共創基盤取締役マネージングディレクター・M&Aアドバイザリー統括責任者
研究テーマ:トランプ2.0
研究会回数:7