会見リポート
2025年04月17日
13:30 〜 15:00
9階会見場
「トランプ2.0」(6) 木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト
会見メモ
トランプ政権による関税政策をめぐり訪米中の赤澤亮正大臣がトランプ大統領と面会、その後ベッセント米財務長官らとの間で初の日米交渉を行ったその日に登壇。今回の関税政策の全体像と、内外の経済に与える影響、日本はどのようなスタンスで交渉に臨むべきなのか、今後の金融情勢などについて話した。
景気後退の可能性について、相互関税の上乗せ分が90日間の停止措置を終えた後も、中国以外には適用されず、10%の一律部分のみが維持されるという楽観シナリオでも「波及効果などを含めると日本のGDPを1%押し下げる」と述べ、「トランプ関税が続いた場合、日本が景気後退に陥る可能性は6~7割程度。米国は4~6割程度」と分析した。
トランプ政権は関税政策だけでなく、移民の流入規制や歳出削減など景気を下振れさせる政策を抱えている。「今後、米国が痛みを感じる局面がでてくる。この痛みが世論を変え、最終的に関税の大幅見直しにつながる」。来年の中間選挙を考えると「今後半年から1年、金融市場の動きによっては4~5カ月」で米国は変わるのではないかとの見方を示した。
日本に対しては、「二国間交渉で関税引き下げに固執すると非常に大きなものを失う可能性がある。中途半端な譲歩はせず、米国が変わるのを待つのがよい」。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信社)
会見リポート
関税率 安易な譲歩にくぎ
川村 豊 (時事通信社経済部長)
木内氏の記者会見が行われたのは、対米関税交渉の特使として派遣された赤沢亮正経済再生担当相とトランプ米大統領らとの会談からわずか7時間後。トランプ関税の回避へ米側からどんな条件を突き付けられたのか、その動向に世の関心が集まっているタイミングだった。
木内氏が冒頭に示したのは、トランプ関税が世界経済に深刻な打撃を与えるとの厳しい試算だ。相互関税の上乗せ分に対する90日間の停止措置がそのまま継続されるという「楽観的」なシナリオでさえ、日本のGDPは0・8%下振れし、6~7割の確率で「景気後退に陥る」と指摘した。
では、日米2国間の交渉でどこまで高関税の適用除外を引き出し、こうした悪影響を回避できるのか。木内氏は「日本側に切り札はない」とする。
トランプ関税の狙いは、貿易赤字の解消。2024年の米国の対日貿易赤字は約8・6兆円だが、例えば、日米交渉で焦点となっている自動車について、「米国車の輸入を無理矢理3倍に増やしたとしても、削減額は5000億円ぐらいにしかならない」。米国産品の輸入増加、対米輸出の抑制だけで解消できる規模ではなく、「下手に譲歩しない方が良い」と言う。
むしろ見通すのは、いずれ米国がトランプ関税全体を見直さざるを得なくなる、という展開だ。高関税政策は米国の経済を下押しし、物価を上振れさせる。来年秋の中間選挙の時点で米国経済がそうした状況に陥っていれば共和党が大敗しかねないため、「どこかの時点で関税率全体を引き下げることになる」。その時期はいつか。木内氏は「半年から1年」と予測した。
「自由貿易を守ることが一番重要な日本の役割だ」。会見中、木内氏は何度かこの言葉を繰り返した。関税率引き下げに固執した安易な譲歩にくぎを刺したと言える。
ゲスト / Guest
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木内登英 / Takahide KIUCHI
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト
研究テーマ:トランプ2.0
研究会回数:6