会見リポート
2025年04月09日
14:00 〜 15:30
10階ホール
「『コメ』はいつまで主食かー価格急騰を考える」(1) 奥原正明・元農林水産事務次官
会見メモ
「令和の米騒動」と報じられた2024年夏のコメの不足と小売価格の急騰。2025年に入ってからも価格高騰が続き、政府は備蓄米の放出を決めた。価格急騰の背景や、主食である「コメ」のこれまでと今後をどのように考えたらよいのかを探るシリーズ企画としてスタートした。
第1回として、行政官として数々の農協改革に携わった奥原正明・元農林水産事務次官が登壇。戦後から今に至るコメと農業政策の変遷と問題点、今後の政策のあり方について話した。
米を巡る問題の解決には、1999年に制定した「食料・農業・農村基本法」の政策方針を貫徹することが重要と強調。プロの農家に農地を集積・集約化し、生産性を高め、輸出の拡大につなげることが必要になるとの考えを示した。また2024年の法改正は「農業改革にブレーキをかけるもので、せっかくできていた国民的コンセンサスが崩壊した」と批判した。
備蓄米の放出については「集荷業者に放出して効果があるのか。実需者、小売り業者に不足分を確実に供給すべきだ」。
司会 西山公隆 日本記者クラブ企画委員 (朝日新聞)
※本会見はゲストのご意向により、YouTubeでの公開は行いません。ご了承ください。
会見リポート
重要、だから過保護を排し
西山 公隆 (シリーズ担当企画委員 朝日新聞社ゼネラルエディター補佐)
久しぶりに会うと、「ああ、変わったな」と思う人がいる。年輪を重ね、現実を知り、流され、ある種の諦めも悟るからだろうか。しかし、久しぶりにお会いした奥原さんに、そんな印象はみじんも感じなかった。
出会ったのは20数年前。私が農林水産省担当記者のときだった。農林漁業の構造改革を訴え、自民党、農協、時には省内でも理路整然、堂々と持論を展開するその姿は、こちらが心配になるほどだった。
この日の会見も同じだった。持参の資料は56㌻。「現在のコメ価格の急騰だけに目を向けるのではなく、その背後にあるこれまでの政策の積み上げに目を向けるべきだ」と語り、終戦後の農地解放から説き起こし、話は旧食糧管理法、ガット・ウルグアイ・ラウンド対策など一連の農業政策に及んだ。
2024年に改正された食料・農業・農村基本法について「せっかくできていた国民的コンセンサスが崩壊した」「構造改革、農協改革にブレーキがかかった」と喝破した。現在のコメ政策についても「農協も政治も、生産調整で、価格を維持することを指向しており、生産性の向上につながらない」と明言。今回のコメ不足も、「ぎりぎりの需給バランスを取ろうとした」政策の延長線上にある、と分析した。「コメが重要だからこそ、過保護にするのではなく、発展させることが大事だ」として、輸出増を視野に置いた生産拡大の必要性も訴えた。
こうした奥原さんの指摘に、政治や農協関係者はどう答えるのか、ぜひ聞いてみたい。
この日の会見は2時間近くに及んだ。旧食管法はもちろん、93年の「平成のコメ騒動」も直接は知らないであろう若い記者たちが、奥原さんの話に深くうなずき、盛んにメモを取っていたのが印象的だった。
ゲスト / Guest
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奥原正明 / Masaaki OKUHARA
元農林水産事務次官 / the former vice minister of the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries
研究テーマ:『コメ』はいつまで主食かー価格急騰を考える
研究会回数:1