2024年12月25日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「シリア・アサド政権崩壊 背景と影響」黒木英充・東京外国語大学教授

会見メモ

中東のシリアで父子2代が半世紀以上独裁支配を続けてきたアサド政権が崩壊してから半月。反政府勢力を率いた「シャーム解放機構(HTS)」のもと、暫定政権が発足しつつある中でシリア情勢に詳しい東京外国語大学教授の黒木英充さんが「シリア・アサド政権崩壊 背景と影響」をテーマに登壇した。

黒木さんはアサド政権の崩壊は、四半世紀にわたりシリアを要に築かれてきたイスラエルに対する「柔らかな包囲網」が崩壊したことを意味するとし、包囲網が築かれた過程を振り返るとともに、戦後日本との類似点などから「アサド後」のシリアの課題などについて話した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

独裁去っても見通せぬ安定

平田 篤央 (朝日新聞社論説委員)

 親子2代、半世紀以上にわたってシリアに君臨してきたアサド政権が崩壊した。その意味を、黒木氏は長期的、短期的な視点から分析した。

 長期的には、イスラエルに対する「柔らかな包囲網」の崩壊と位置づけられるという。シリアは冷戦期に米欧とは関係が悪化。中東地域でもイラン・イラク戦争でイラン側に立ってアラブの中で孤立し、トルコとはクルディスタン労働者党をめぐって対立した。

 だが、1991年の湾岸戦争で多国籍軍に参加したことで西側とは関係を改善。トルコとは98年のアダナ合意などで和解した。2000年にバッシャール・アサドが死去した父の後を継いだとき、シリアは中東各国と良好な関係を維持していた。

 イスラエルからすれば、シリアの友好国に囲まれていると脅威を感じていたに違いない。しかし、その後米国によるイラク戦争、アラブの春以降の政変などでシリアの「友人」たちは次々に倒れ、ついにアサド自身が国を去った。

 では、アサド後のシリアは安定するのか。答えは否定的だ。根拠は、2023年10月にパレスチナ自治区ガザでハマスとイスラエルの戦闘が始まって以降の短期的な状況の分析だ。

 この間の動きを見ると、アサド政権打倒の主役となったシャーム解放機構(HTS)はトルコの支援を受けており、トルコは米国を挟んでイスラエルとも連携していた可能性がある、と黒木氏は見る。

 この3国は、いずれもシリアの領土の一部を占領している。HTSが主導する新政権では、シリアの主権が侵害された状況の解消は見込めない。さらに、クルド勢力との間の緊張も解消されないだろう。

 独裁政権が消えても、もろ手を挙げて喜べない。シリア情勢はまだまだ注意深く見ていく必要がある。


ゲスト / Guest

  • 黒木英充 / Hidemitsu KUROKI

    東京外国語大学教授 / Professor, Tokyo University of Foreign Studies

研究テーマ:シリア・アサド政権崩壊 背景と影響

前へ 2025年05月 次へ
27
28
29
30
1
2
3
4
5
6
7
10
11
12
17
18
24
25
27
28
30
31
ページのTOPへ