2024年11月25日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「巨大地震を考える」(5) 関谷直也・東京大学大学院教授

会見メモ

 防災情報論や社会心理学を専門とする 東京大学大学院教授の関谷直也さんが「南海トラフ地震臨時情報の課題」と題し登壇した。

8月8日に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出たことを受け、翌9日~11日に全国を対象とした住民意識調査を実施。さらに3カ月後の11月にも同様の調査を行った。両調査の結果から、短期的効果、長期的効果を解説するとともに、ここからみえた問題点、今後考えるべきポイントについて話した。

関谷さんは「予知ではなく確率的情報であることが十分理解されていなかった」「地震への備えを再確認してほしいというメッセージがあいまいだった」と問題点を指摘。明確なメッセージを発信する、確率的情報であることを丁寧に説明する、自治体や企業、住民が事前に対応を決め共有することが重要になるとした。

 

司会 行方史郎 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)


会見リポート

臨時情報 被害を減らす契機に

下桐 実雅子 (毎日新聞社くらし科学環境部)

 関谷教授の専門分野は、災害時の情報伝達と社会心理。人々の心理や行動から13年前の東日本大震災の教訓をまとめた著書『災害情報』(東京大学出版会)などがある。

 この大震災が突きつけたのは「今の科学で地震予知は難しいこと」と「被害規模の甚大さ」だった。会見のテーマである「南海トラフ地震臨時情報」も、予知を前提とする枠組みを見直して作られたと解説した。

 8月に初めて発表された臨時情報(巨大地震注意)は、地震の起きる確率が少し高まったことを伝え、日ごろの備えを再確認してもらうことが目的だ。だが、「防災対応を促す情報としては機能しなかった」と振り返った。

 発表直後に関谷教授らが実施した1万人規模の全国調査では、避難場所や家族との連絡方法を確認したり、水などを購入したりした人はわずかだった。「メディアではいろいろな混乱が起きたように言われているが、実際の住民の対応は低調だった」と分析した。

 その要因として、情報の伝え方に問題があった、と見る。政府の呼びかけでは「日常生活における社会経済活動の継続」を前置きしたために「何をすべきかが分かりにくくなった」とし、明確なメッセージと伝え方をあらかじめ決めておくべきだったと指摘する。

 内閣府の調査では、臨時情報について十分認知していた市町村は2割にとどまった。自治体や企業はどう対応するかを事前に協議し、共有しておくことも重要になる。

 お盆の時期でもあり、海水浴やイベントなどへの対応が地域で分かれたことに注目が集まったが、避難しやすい場所なら実施する、難しければ中止、といった個々の判断にならざるを得ないという。

 臨時情報への対応を考えることは、南海トラフ地震そのものへの備えや防災体制の点検につながる。被害を少しでも減らす対策のきっかけにしてほしい、と関谷教授は訴えた。


ゲスト / Guest

  • 関谷直也 / Naoya SEKIYA

    東京大学大学院教授 / Professor, Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, Tokyo University

研究テーマ:巨大地震を考える

研究会回数:5

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