2025年02月17日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「変わる『家族』」(6) 弁護士 榊原富士子さん

会見メモ

1月24日に開会した通常国会で注目される議論の一つに選択的夫婦別姓の導入の是非があげられる。与野党内の議論が活発化する中、選択的夫婦別姓を巡る憲法訴訟を弁護団長として率いてきた弁護士の榊原富士子さんが登壇。この間の裁判の歴史、通称拡大の現状とその限界、各メディアや内閣府で実施している世論調査から見えることなどについて話した。

 

司会 猪熊律子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞社)


会見リポート

「選択的夫婦別姓」は緩やかに実現する

尾﨑 雄 (日本経済新聞出身)

 1972年、作家、野坂昭如はレコード「黒の舟唄」をリリースした。歌詞「男と女の間には深くて暗い河がある」は中年男らを魅了した。それから幾星霜。男女をつなぎとめるべき結婚制度が揺らいでいる。野党は夫婦別姓の法制化を参議院選の公約に掲げ、古い家族観にしがみつく自民党のアキレス腱を断とうとする。

 榊原富士子氏は弁護士登録をしてまもない1984年、「選択的夫婦別姓をすすめる会」を設立した。「別姓」論の歴史、法の理論、賛否の流れ、世論の行方などに精通する斯界のエキスパート。世代差、家族観、ジェンダー、政治信条などが絡むだけに議論が深まれば深まるほど分り難い。便宜的に旧姓を名乗ることを求める「通称法制化」案が加わり、さらに、ややこしくなった。榊原氏は各種データを分かりやすい表やグラフに加工。論点を見える化して、選択的夫婦別姓制度への道筋を淡々と語った。

 若い女性記者が、親の世代は「家族の一体感がなくなるから別姓に反対」という実情を踏まえ、そもそも姓が一緒だと家族の繋がりが強まるのかと質すと、榊原氏は「氏が人格権だとしたら、その感じ方はさまざま」だと答えた。選択的夫婦別姓を権利として認めることは世界の趨勢。2003年、アフリカ連合の締約国がそれを保証。2005年にタイが、2014年にトルコがそれぞれ違憲判決を受けて別姓婚が可能になった。国連の自由権規約委員会は2022年、日本政府に実施を促すよう勧告している。

 1月30日現在、地方議会が国会に出した選択的夫婦別姓推進を求める意見書は469件。提出自治体がカバーする人口は全国の70%に及ぶ。男女平等、個人の尊重、自己決定、多様性、子の利益を認めるための法改正は、2011年、離婚した子どもとの面会交流が明文化されるなど着実に進んできた。変容する家族に引きずられて日本的家族法は、ゆっくりと変わりつつある。「残されているのは選択的夫婦別氏(べつうじ)制のみ」と榊原氏は語った。


ゲスト / Guest

  • 榊原富士子 / Fujiko SAKAKIBARA

    弁護士

研究テーマ:変わる『家族』

研究会回数:6

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