2024年10月16日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「自治体消滅にあらがう」(5) 棚野孝夫・白糠町長(北海道町村会長)

会見メモ

シリーズ5回目として棚野孝夫・白糠町長(北海道町村会長)が登壇した。

子育て支援・経済活動の活性化という2軸に視点を向け、子どもがいなくては町は成り立たない、経済活動なくして町は残らないとした。

昔は新鮮な魚をとって現場で売るような生の商売が主流だったが、楽天市場ができ、漁業生産者にも働きかけてネットを通じた販路拡大も可能になった。2015年度から本格的に開始されたふるさと納税は、初年度で1億6000万の寄付に。働き手の意欲向上にも繋がったという。人口減少に歯止めをかける仕組みづくりの一つとしては、地方が一次産業を増やせるように、国が政策を講じ、地方移住が進むような雇用の流れをつくることを一つの案とした。そのための財源の必要性についても言及。地方交付税は「親の仕送り」とし、大部分の自治体にとってなくてはならない財源と述べた。

 

司会:日本記者クラブ企画委員  小林伸年(時事通信社)


会見リポート

「やる気」後押しする政策こそ必要

志子田 徹 (北海道新聞社論説委員・東京駐在)

 この10年、地方の自治体は「消滅」という言葉に苦しんできた。日本創成会議のレポートの衝撃はあまりにも大きかったのだ。

 今春、再び人口戦略会議が744市町村を「消滅可能性がある」と指摘した。「絶対に容認できない」。そう訴えてきたのが棚野町長だ。2015年から北海道町村会会長を務め、全国町村会の副会長でもある。

 人口減少や少子化には、どのまちも必死に取り組んでいる。自治体に原因があるかのような「レッテル貼り」はおかしい。そもそも国が責任を持ってやる問題ではないか―。会見冒頭から強い憤りをにじませた。

 北海道東部の白糠町は釧路市に隣接している。農林水産業が盛んだが、人口は約7千人と往時の3分の1にまで減った。財政も厳しい中、棚野町長はまちづくりで二つの柱を掲げる。一つは子育て・教育の支援だ。保育料、18歳までの医療費、小中高の給食費を無料化した。

 もう一つは一次産業の振興だ。北海道は原材料や生産物の供給地にとどまっている。これでは所得が上がらず人口減少を招く。何とか生産者が加工や販売まで手がけられないか。

 知恵を絞った末、2006年に自治体で初めて楽天市場に町の特産品を売るネットショップを開設した。さらにふるさと納税が追い風となった。いくらやサーモンが人気で、昨年は167億円と全国4位。制度には課題もあるが「新たな事業にチャレンジする財源は必要だ」と強調する。

 こうした施策の結果、7年間で91世帯、284人が移住し人口減少率は鈍化しつつある。「首長のやる気が知恵を生み出す」と棚野町長。1次産業を再興すれば町村は消滅するはずがない。それが最も訴えたかったことだろう。

 地方といっても地域ごとに特性や課題はさまざまだ。石破首相は「地方創生の再起動」を掲げる。自治体の実情にしっかり向き合った上での政策展開が大前提なのは言うまでもない。


ゲスト / Guest

  • 棚野孝夫 / Takao TANANO

    白糠町長、北海道町村会長 / Mayor of Shiranuka Town

研究テーマ:自治体消滅にあらがう

研究会回数:5

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