2024年07月22日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「大統領選後のイランと中東情勢」田中浩一郎・慶應義塾大学教授

会見メモ

7月5日のイラン大統領選挙の決選投票で、改革派のマスード・ペゼシュキアン元保健相が当選した。

現代イラン研究の第一人者である慶應義塾大学教授の田中浩一郎さんが登壇。今回の大統領選を振り返るとともに、ペゼシュキアン新大統領が目指すことや、新政権が中東、米欧などの国際情勢に与える影響などについて話した。

 

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

最高指導者の交代が分水嶺

久門 武史 (日本経済新聞社編集委員)

 イラン大統領に就任したペゼシュキアン氏は、米欧との対話を通じ制裁緩和を探る構えだ。その道のりは険しいと田中教授は分析した。

 イランが核開発を制限し、見返りに米欧から制裁緩和を引き出した2015年の核合意は、有名無実化した。再建は「ほぼ不可能」とみる。

 米国が大統領選前に歩み寄ることはまずない。核合意から米国が一方的に離脱後、反発するイランは高濃縮ウラン製造のノウハウを獲得してしまった。元通りの核合意は意味が乏しい。新たに合意をつくり直す場合は米議会の批准が難関となる。

 となると、イランは制裁を回避する道を探るだろう。中ロなどでつくるBRICSや中国主導の上海協力機構(SCO)に接近し、米ドル決済に頼らない貿易に活路を見いだす可能性は高いと分析した。

 日本とイランの通商が息を吹き返す見通しは立たない。日本企業は米国の金融制裁を警戒せざるを得ない。両国を結ぶ人のつながりがますます薄れかねないと田中氏は憂えた。

 今回の大統領選は、前任のライシ師がヘリコプター墜落で死亡したのを受けたものだ。ライシ師の急死で、最高指導者ハメネイ師の後継は不透明になった。ライシ師には主要ポストで経験を積ませてきた。同じように育てる時間は限られる。

 ハメネイ師は85歳。「急あつらえで後継者を選ぶことになるだろう」。イラン革命から3代目の指導者になるその人物が、イランの将来を考えるうえで重要だと説いた。

 濃縮ウランの核兵器転用が疑われるなか、ハメネイ師は核兵器製造を禁じるファトワ(宗教令)を出した。「3代目がどういう見解を出すかは大きな分水嶺になる」。影響力の強い革命防衛隊に抑えが利くのかも、体制の行方を占う。最高指導者の交代にこそ目をこらすべき理由だが、後任選びはブラックボックスだと指摘した。


ゲスト / Guest

  • 田中浩一郎 / Koichiro TANAKA

    慶應義塾大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:大統領選後のイランと中東情勢

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