2024年07月08日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「変わる『家族』」(1) 落合恵美子・京都産業大学教授、京都大学名誉教授

会見メモ

家族のあり方が変わる中で、税、社会保障、労働慣行などの諸制度はいまだに昭和モデルを前提としている。「家族」の今を探るとともに、どんな制度改正が必要かを考えるシリーズ企画「変わる『家族』」の第1回として、京都産業大学教授で京都大学名誉教授の落合恵美子さんが「ポスト20世紀体制のケアのゆくえ」と題し登壇した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信社)


会見リポート

ケアをみなで分かつ社会へ

長友 佐波子 (朝日新聞出身)

 専業主婦は、近代化が生み出し、社会で担っていたケアを家庭に負わせる好都合な装置だった―家族社会学者、落合恵美子京産大教授の会見を聞いて、そんな思いを強くした。

 教授は冒頭、「変容する家族という時、それはどんな家族か」と、メディアの家族観に疑問を呈した。

 みなが適齢期に結婚し、子は2、3人。夫が働き妻は家事。離死別や婚外子は例外的―こうした家族を、落合教授は「近代家族」と名付けた。国のいう標準世帯と重なる。

 データは、この近代家族が1930年代~70年代の一時的な形態だったと示す。例えば、明治維新の前は日本の女性は8割が働いていた▽女性の就業率が結婚・出産で下がる「M字カーブ」は明治初期にはなかった▽同時期の女性の1割は子を産まなかった▽同時期は離婚率・婚外子出生率とも現代より高かった―。

 近代化とともに近代家族が社会の基本単位となり、育児、看護、介護などのケアが「家庭化」された。その無報酬の担い手は主婦化した女性。「20世紀体制」である。

 だが70年代に体制は崩壊、「ケアの脱家族化=ケアの社会化」が始まる。欧州では国家が、米国では市場が、ケアを担うようになった。一方日本では近代家族が「日本の伝統」という誤った刷り込みがなされた。第三号被保険者が創設され、近代家族は補強・延命された。

 けれど日本はもともと男女ともに働き、ケアをする社会だったと、教授は論拠を挙げる。江戸時代の男性はイクメンで、武士も介護をした。親孝行はむしろ息子の義務だった。藩や寺院による困窮者支援もあった。

 「家族にケアを丸投げしてきたのが近代社会。これからは、家族以外のセクター、国家、市場、コミュニティーみなでケアをシェアすることが大事。でなければ持続可能な社会が作れない」。少子化対策上はむしろ近代家族から変わる必要があるのだ。


ゲスト / Guest

  • 落合恵美子 / Emiko OCHIAI

    京都産業大学教授、京都大学名誉教授

研究テーマ:変わる『家族』

研究会回数:1

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