2024年04月26日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「ハマス・イスラエル衝突」(6) 齊藤貢・元駐イラン大使、東洋英和女学院大学非常勤講師

会見メモ

 4月に入りイランとイスラエルの衝突が立て続けに起きた。2018年から20年に駐イラン大使を務めた齊藤貢さんが、両国間の「影の戦争」が、今回「公然の戦争」へと変化した理由、イスラエル、イラン、米国の思惑を詳説するとともに、短期、中期の見通しを語った。

 イスラエルによるシリアのイラン大使館への攻撃は、ネタニヤフ首相が自身の延命のために行ったものと見立てた。「汚職まみれで首相を辞任すれば収監される。国内の批判が高まる中、自身の延命を図るために“危機”を続ける必要があった」「イラン大使館への攻撃によりヒズボラが報復、これを受け、レバノン侵攻に踏み切るシナリオ。誤算はイランが反撃したこと」。

 今後について、短期的には「沈静化する」とみる。11月には米大統領選を控えている。トランプ氏復帰を期待するイスラエルに対し、イランは予測不能なトランプ氏の復帰よりも、バイデン氏再選の立場。「再選の足をひっぱる中東での紛争は避けたい」との思惑がある。

 一方で今回、公然の戦争と化したことで、「これまで以上に大規模衝突が起きやすくなった」とも指摘。中期的には「核抑止力の重要性を認識したイランが核武装を加速することが懸念される」。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 


会見リポート

「イスラエル・イラン 陰の戦争が表に」

原田 健男 (JNN元カイロ支局長・山陽放送出身)

 4月1日シリアにあるイラン大使館がイスラエルによるとみられる攻撃を受け、イラン革命防衛隊幹部が殺害された。そしてこの2週間後、報復としてイランがイスラエルに300発のミサイルやドローンを発射。4日後には今度はイスラエルがイランの核施設の防空設備を破壊した。パレスチナ・ガザ地区のハマスとイスラエルの対決はイランとイスラエルという新たな対決に展開してきた。

 今回のイスラエルとイランの報復合戦について、齊藤貢元駐イラン大使は「近年なかった直接対決となってしまった」と語る。この2か国は、ここ20年ほどは、国と国の直接対決は避けてきたそうだ。具体的には、例えばイランが支援するレバノンのシーア派組織ヒズボラやパレスチナ・ガザ地区のハマスが時々、イスラエルにミサイルやドローン攻撃を行う。これに対してイスラエルはヒズボラやハマスの拠点に空爆を行ったり、イランの核技術者や革命防衛隊幹部の暗殺を行うなどしたものの表には出ず秘密裏に進められてきた。

 イスラエル対ハマスの対決にイランが加わる形になったことで、中東の危機は高まりそうだが、イランがさらに攻撃を強めるかというとそうとも言えないと齊藤元大使は言う。イランはアメリカやイスラエルを激しく糾弾し続けているが、本当の戦争になったらイランに勝ち目はない。ゆえに今回のイスラエルへのミサイル攻撃でも事前にアメリカやイスラエルに通告するなど被害拡大を防いだという。むしろ心配なのはイスラエルの方で、ネタニヤフ首相は国内で汚職疑惑のため窮地に立たされており、この国内的窮地から逃れるため、ハマスの壊滅を図ったあとレバノンのヒズボラ等にも大規模攻撃をかける可能性があるという。

 パレスチナ・ガザ地区のハマスが始めた戦争だが、思わぬところに展開し、再び中東の不安定化につながる恐れが出てきているようだ。


ゲスト / Guest

  • 齊藤貢 / Mitsugu SAITO

    元駐イラン大使、東洋英和女学院大学非常勤講師 / former ambassador to Iran

研究テーマ:ハマス・イスラエル衝突

研究会回数:6

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