2024年04月05日 17:30 〜 20:08 10階ホール
試写会「正義の行方」

会見メモ

1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が殺害された「飯塚事件」の関係者を追ったNHK「BS1スペシャル」のドキュメンタリー「正義の 行方~飯塚事件 30 年後の迷宮~」を再編集し、映画化した。

事件発生当初からの自社の報道に疑問を持ち、調査報道を続ける西日本新聞社の記者と、弁護士、元警察官。立場の異なる当事者たちが語る「真実」と「正義」から事件の全体像を多面的に描いた。

映画版では「重要参考人浮かぶ」というスクープを打った西日本新聞の元記者・宮崎昌治さんにも焦点をあてている。

上映後、監督の木寺一孝さんが、参加者からの質問に応じた。

 

©NHK

 

公式サイト 


会見リポート

「真実」に代わり追ったもの

青島 顕 (毎日新聞社新聞研究本部)

 死刑が執行された元死刑囚の再審請求の行方を追ったNHKBSのドキュメンタリー番組を再構成した映画が完成した。2時間38分の長編だ。

 事件は32年前、福岡県飯塚市で起きた。登校途中の小学1年生の女児2人が行方不明になり、絞殺された遺体になって山中で発見。同じ校区に住む無職の男性が逮捕されるが容疑を否認。裁判でも無罪を主張したが、死刑が確定し、確定の2年後に執行された。

 検察側は決定的な物証をそろえることができなかった。裁判所は、技術水準が未熟な段階のDNA鑑定、遺棄現場の目撃証言、車の繊維や血痕の血液型鑑定といった単体では弱い証拠を総合して有罪と認定した。再審請求審では、最大の柱とされたDNA鑑定の信用性が崩されていく。

 映画は、捜査の正当性を主張する福岡県警の元幹部、再審開始に執念を燃やす弁護士、当時の報道の検証をする地元の新聞記者――。三者の思いや行動を描く。

 真実は何か。検証取材をした記者は「神様でもない限り分からない」と語る。代わりに、木寺一孝監督が追ったのは三者それぞれが信じる「正義」だ。木寺さんは「正義のぶつかり合い」に迫ることで、ギリギリの所で作品を成り立たせた。

 冤罪を信じる人、逆に警察を信じる人、いずれもが映画に不満を抱くかもしれない。「立場を明らかにせず、逃げている」と言う人がいるかもしれない。だが真実が分からない以上、木寺さんの態度は誠実だと思う。

 報道の在り方も問われている。捜査段階の警察担当記者は「(自分は)ペンを持ったおまわりさんでした」と自戒を込めて言う。だが、情報が捜査当局に集まり、記者が当局に依存する警察取材の構造は今も大きく変わっていない。情報公開制度も不十分で、事後検証もきちんとできない。今後、どのような事件報道を目指していくべきなのだろうか。


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