2024年01月29日 11:00 〜 12:00 オンライン開催
「能登半島地震」(5) 青木賢人・金沢大学准教授 

会見メモ

 地域防災が専門で、石川県防災会議震災対策部会の委員を務める金沢大学准教授の青木賢人さんが、リモートで登壇した。

 石川県は、東日本大震災を受けた地域防災計画の改定作業で津波の想定は見直したが、地震とそれに伴う被害想定は四半世紀以上更新していなかったという。

 ちょうど見直しの作業を進めていたところでの発災に、「想定が間に合わない『未想定』の状態。被害想定が早期になされていれば、被害の低減に効果を果たしたのではないか」と反省の弁を述べた。

 課題の一つとして、主力産業である水産業の復興を挙げ、「すべての漁港を対象にするのかは、地域、漁業者の高齢化も踏まえた『選択と集中』になる。合意形成が重要」との考えを示した。

 復旧の優先順位を問う質問に対しては「能登は地縁・血縁のコミュニティーが崩れると動かなくなる。帰る場所を作るライフライン・インフラの復旧とコミュニティーの維持を同時並行で進める必要がある」。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

「想定外」ではなく「未想定」

久慈 省平 (テレビ朝日広報局・元災害報道担当部長)

 なぜ、能登半島地震は甚大な被害となったのか。指摘されている要因の一つが、石川県の地域防災計画の地震想定が古いままだったことだ。地域防災が専門で、県の防災計画にも関わっている金沢大学の青木准教授は「大きな後悔がある。悔しさを感じる」と述べた。

 県の防災計画は、地震の規模をより小さく見積もり、四半世紀以上も更新していなかった。これをもとに対策を作っていたため、道路整備の遅れや備蓄不足など、「住民の防災意識にも大きく影響した」と青木准教授は分析する。一方、津波対策には最新情報を盛り込んでいた。今回と同規模の地震を想定し、津波は「短時間に、広く、高く」襲ってくることを周知。速やかな住民避難につながるなど効果的で、「防災計画はうまくいったところと、うまくいかなかったところがある」と総括した。新しい防災計画は来年にも公表予定だったが、本番に間に合わなかった格好で、「今回の地震の規模は想定外ではなく、いわば未想定」と悔しさをにじませた。

 三方を海に囲まれている半島で起きた地震。海岸の隆起と津波により海路が断たれて、救命、救急活動の初動が遅れ、地すべりが起きやすい地形は孤立集落の多発につながったと解説した。これは南海トラフ巨大地震の際の伊豆半島などと似ていて、「共通の課題である」と次の災害にも警鐘を鳴らした。

 主要産業である水産業の復興も急務だ。「全ての漁港を再建するのか」については、「過疎化、高齢化を前提に選択と集中の合意形成が重要になる」とし、「これは将来の日本全体の課題でもあり、モデルケースとなる」との考えを示した。能登半島地震は、隆起、津波、液状化など、さまざまな被災現場を目視できる災害となった。「震災遺構として残し、将来の災害の備えにしたい」という提案には、地元密着にこだわる研究者の覚悟を感じた。


ゲスト / Guest

  • 青木賢人 / Tatsuto AOKI

    金沢大学准教授 / Associate Professor, Kanazawa University

研究テーマ:能登半島地震

研究会回数:5

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