2023年09月15日 13:00 〜 14:30 10階ホール
著者と語る『入管ブラックボックス 漂流する入管行政・翻弄される外国人』木下洋一・元入管職員

会見メモ

木下洋一さんは2019年までの18年間、入国審査官として東京局、横浜支局、羽田支局等地方(支)局等で、在留審査、上陸審査、違反審判等の業務に従事した。

本書では入管業務の実態、入管の持つ裁量権の問題、死亡事案が多発する理由などについて語っている。

会見では入管を巡る問題や6月に成立した改正入管法の課題、執筆にあたり悩んだことなどについて話した。

 

司会 井田香奈子 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)


会見リポート

入管の裁量の大きさに違和感

市川 美亜子 (朝日新聞社論説委員)

 出入国管理庁(入管)という組織のあり方が、ここまで注目されたことは、過去になかったのではないか。ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件や入管法改正などで入管が揺れ続けたこの2年半あまり、自身の体験をもとに入管のあり方への提言を続けてきたのが元入管職員の木下洋一さんだ。8月末の『入管ブラックボックス 漂流する入管行政・翻弄される外国人』(合同出版)の発刊をきっかけに話を聞いた。

 木下さんが18年間勤務した入管を退職したのは、2019年。強制送還や在留特別許可などの外国人の人生を左右する判断に際し、あまりにも「裁量」が大きいことへの違和感が拭えなくなったためだという。きっかけの一つが、入国審査官として子どもたちの強制送還を目の当たりにしたことだった。「基準らしい基準がないなかで、入管職員の『さじ加減一つ』ともいえる恣意的な判断や組織的な慣習で翻弄される人々の姿を見て、このままでいいのだろうかと思うようになった」

 自身の疑問と向き合うために、働きながら大学院で学んだ。研究を進めるなかで、強く感じたのは1978年に最高裁大法廷が出した「マクリーン判決」の影響の大きさだ。45年も前の判決ではあるが、「いまだに入管関連の裁判に必ずといってよいほど引用され、入管の巨大な裁量権にお墨付きを与えている。この判決が裁判官も呪縛しているのではないでしょうか」

 1時間半に及ぶ会見のなかで、とくに印象に残ったのは、この本を「大学生に向けて書いた」という言葉だった。「入管法改正議論では意見が両極端にわかれ、エコーチェンバーのような現象が起きました。真ん中にいる多くの市民は、どう考えたらいいのか戸惑ったのではないでしょうか。だからこそ、私が18年間の入管生活で何を思い、何を感じたのか。率直に語ることで、もっと自由に入管問題を考えるきっかけにしたい」


ゲスト / Guest

  • 木下洋一 / Yoichi Kinoshita

    元入管職員

研究テーマ:著者と語る『入管ブラックボックス 漂流する入管行政・翻弄される外国人』

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