2023年05月10日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「今、起きつつある中東の地殻変動」齊藤貢・前駐イラン大使

会見メモ

今年3月のサウジアラビアとイランの国交正常化合意に続き、5月7日にはアラブ連盟が、内戦が続くシリアの連盟復帰を決議するなど、中東情勢が動いている。

2018年から2020年まで駐イラン大使を務めた齊藤貢さんが「今、起きつつある中東の地殻変動」と題し、米国の撤退が引き金となり新たなバランス・オブ・パワーを模索する中東地域の現状などについて話した。

 

齊藤貢氏は、駐イラン大使や駐オマーン大使を務めるなど、日本の中東外交の最前線で活躍し退官。著書に『イランは脅威か: ホルムズ海峡の大国と日本外交』(岩波書店、2022年)がある。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 


会見リポート

サウジ・イランの関係修復で中東の行方は

原田 健男 (元JNNカイロ支局長)

 犬猿の仲だったサウジアラビアとイランの国交回復を中国が演出し、孤立していたシリアのアラブ連盟復帰が決まるなど中東は今、大きな地政学的変動を迎えている。齊藤貢前駐イラン大使が、中東の今の変動とその背景を語った。

 中東の大国サウジアラビアとイランは、イラン革命後、革命を輸出しようとするイランと王国のサウジアラビアとの間で緊張が高まっていた。そうした中2016年サウジがイラン系有力宗教指導者を処刑、これに対しイランのデモ隊がテヘランのサウジアラビア大使館を焼き討ちし国交を断絶、両国の対立はイエメンでも続き、中東に緊張をもたらしていた。

 両国の国交回復で緊張緩和が期待されそうだが、齊藤前駐イラン大使によれば、そう簡単にはいかないそうだ。イランは宗教保守強硬派が立法・司法・行政の三権を独占し国民の不満が高まり今も各地で反政府デモが続く一方、ウクライナに侵攻したロシアにドローンを供与して肩入れしている。サウジアラビアもアメリカのバイデン政権との関係が悪化する中で、中国からは弾道ミサイル製造設備を入手、さらに進んで核技術の供与を求めるのではないかと疑う声もある。シリアはアサド政権が内戦に勝利し、バックにいるロシアがますます勢力を強めそうだ。再結集に向かうイラン・アラブ諸国に対しイスラエルは再び孤立化、核開発を進めるイランに軍事手段を使う選択肢も出てくるかもしれないという。

 一方いまだに95%の原油を中東から輸入している日本にとっては、エネルギー安全保障面では、アメリカが自国のシェールオイル産出で中東への関与を弱めるのは喜ばしい話ではない。中東へのアメリカの関与縮小とロシア・中国の進出。これが何をもたらすのか注意深く見ていく必要がありそうだ。


ゲスト / Guest

  • 齊藤貢

    前駐イラン大使

研究テーマ:今、起きつつある中東の地殻変動

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