2023年05月19日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「放送法文書をどう読むか」(2) 鈴木秀美・慶應義塾大学教授

会見メモ

憲法や放送法などのメディア法を専門とする慶應義塾大学の鈴木秀美教授が登壇し、放送法4条が定める「政治的公平」の解釈を巡る総務省の文書が何を明らかにし、何が問題だったのかを表現の自由の観点から話した。

 

司会 田玉恵美 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 


会見リポート

放送界全体で闘う姿勢を

天野 環 (TBSテレビ番組審議会事務局長)

 第二次安倍政権下の2014年から15年、16年にかけて、放送法4条の「政治的公平」の解釈は明らかに歪められた。それまで「番組全体」で判断するはずが、〝極端な場合〟は「一つの番組」でも判断されるという。高市総務相(当時)からは〝停波〟発言まで飛び出した。一連の経緯が記された「放送法文書」をめぐり、鈴木教授は、礒崎首相補佐官(当時)の働きかけは、総務大臣権限への介入であり「国会軽視」だと指摘。さらに、テレビ局には「大きな萎縮効果」を及ぼしたのではないかと懸念を示した(総務省は一貫して解釈変更はしていないというが、極めて理解し難い)。

 そもそも憲法で保障された「表現の自由」と、放送法による番組内容規制をどう考えるのか。鈴木氏は「周波数が有限」であること、放送には「特殊な社会的影響力」があることを理由に、規制は合憲であるとする議論を紹介。4条1項について総務省は「法的拘束力」があるとしているが、通説では「倫理規定」、つまり放送事業者の自主自律に委ねられるものである。放送法4条違反を理由とした、電波法に基づく〝停波〟などはできないはずだ。

 では〝政治的公平性〟の判断は果たして可能なのか。鈴木氏は「客観的に判定することは不可能」と明言。そして、この「政治的公平」を含む4条1項は、民間放送に対しては削除し、放送内容は自主規制に委ねるよう、放送法の改正を求めた。一方、公共放送は役割が異なるため、NHKに対しては何らかの規制を残すべきとしている。

 今回の「文書」で、解釈変更の経緯が明らかになった以上、放送界全体で声を上げ、異議申し立てをすべきだと鈴木氏は言う。当事者は沈黙せず、表現の自由のため闘う姿勢を示してほしいという鈴木氏の要望は、至極真っ当である。時の為政者の意向により、行政が放送法の解釈を変更したこと、このことを私たちは検証し、伝え続けるしかない。


ゲスト / Guest

  • 鈴木秀美 / Hidemi SUZUKI

    慶應義塾大学教授 / professor, Keio University

研究テーマ:放送法文書をどう読むか

研究会回数:2

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