2023年05月22日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「関東大震災100年」(1) 震災の真相:震源、被害、そして復興 武村雅之・名古屋大学特任教授

会見メモ

1923年の関東大震災の発生から9月1日で100年を迎えるのを前にしたシリーズ「関東大震災100年」の第1回ゲストとして、名古屋大学減災連携研究センター特任教授の武村雅之さんが登壇し、「関東大震災の真相:震源、被害、そして復興」をテーマに話した。

 武村さんは、関東大震災の震源から被害・復興に至るまで幅広く調査・研究を重ねてきており、関東大震災研究の第一人者。5月に著書『関東大震災がつくった東京』(中央公論新社)を刊行した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 


会見リポート

首都のあり方考える元年に

横井 武昭 (中日新聞社社会部)

 今年9月で関東大震災から100年となる。この未曾有の災害を30年間研究してきた名古屋大の武村雅之特任教授は、被害の実相から帝都復興への道のりまで全体像を解説。首都直下地震に怯える東京の現状に警鐘を鳴らし、「100年の節目に街のあり方を考えよう」と訴えた。

 10万5千人の犠牲者を出した関東大震災は、死者数や経済被害で比べると、東日本大震災の10倍の規模になる。相模トラフを震源とする地震だけでなく、余震を含めて多くの首都直下地震を伴ったと説明した。

 震源から外れた東京でなぜ被害の7割が集中したのか。地盤の悪い隅田川の東に工場や働く人の家が密集し、揺れで次々倒壊して火災も広がったと指摘。「都市の基盤整備をしないまま富国強兵で産業振興をし、軟弱地盤に人口集中を招いたのが最大の被災地となった要因」とした。

 帝都復興事業の総額は現在の4兆円。「市民のための公共性、国民的合意、世界に誇れる品格のある首都」をモットーに進められた。震災の反省に立ち、区画整理で街路を広げ、耐震耐火と美観を徹底した橋をかけ、憩いの場の公園も多く造った。

 だが、戦後は衣食住の確保と経済が優先された。郊外に木造密集地が再びでき、1964年の東京五輪に伴う開発で震災復興時の公園や橋も姿を消した。2000年以降は高層ビルが林立。災害時は大量の帰宅困難者やエレベーターの閉じ込め、湾岸埋め立て地の孤立が懸念されている。

 「街は市民に対して平等に利益をもたらすものでなければならない。住みやすい街だからこそ市民に連帯意識が生まれて、共助の気持ちができ、防災に皆で協力しようとなる。今の東京を誇る人なんていない」

 関東大震災から100年の年を、これからの首都を考える元年にしてほしい―。そう訴える地震学者は、ゲストブックの揮毫に「人生無常」と書いた。そのメッセージは重い。


ゲスト / Guest

  • 武村雅之 / Masayuki TAKEMURA

    名古屋大学特任教授 / Visiting professor, Nagoya University

研究テーマ:関東大震災100年

研究会回数:1

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