2023年04月27日 16:00 〜 17:00 9階会見場
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞「アダマン号に乗って」 ニコラ・フィリベール監督 会見

会見メモ

 患者と介護者が議論しながら人間的な精神科医療を実践しているパリのデイケアセンターを舞台にしたドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」が、2023年2月に開かれたベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。アダマン号はパリ中心部のセーヌ川に浮いている船を模した木造建築。セーヌ川は光により色が変わり、水に癒やされると感じる患者は多いと言う。ゲストのニコラ・フィリベール監督に話を聞いた。

 同席したリンダ・カリーヌ・ドゥ・シテールさんはアダマン号に乗っている臨床心理士でプロジェクト・アドバイザーでもある。監督は精神科医療をテーマにしたドキュメンタリー作品(1996年)の現場でリンダさんと知り合い、2人は信頼関係を築いた。今回も撮影から編集まで相談しながら共に製作に携わったという。

  

司会 元村有希子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)

代表質問 中村正子 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

通訳 人見有羽子さん


会見リポート

精神科医療の現場は「この世を映す鏡」

沖永 利志子 (時事通信社文化特信部)

 穏やかな笑みを浮かべたフィリベール監督。まず受賞について「ドキュメンタリーというジャンルにとってもすばらしい。商業的にヒットしにくい部門が認められてうれしい」と喜びを語った。

 なぜ精神科医療に関心があるのか。説明するのは難しいと言いつつ、「個人的に興味がある」と監督。「私が心に押し込めているかよわい部分や何かを、照らし出してくれるからではないか」と思っている。精神科医療の世界は「私たちが住む世界の鏡」だとも。「患者と会うと驚くような事も起きるが、刺激的で、目を輝かせたくなることに出合える」。飾り気のない、フィルターのない、明せきな発言をする彼らに会って、癒やされるのだと言う。

 監督のドキュメンタリー作品に登場する人々は自由で自然だ。それを支える製作のモットーは「できるだけ準備をしないこと」。撮影では偶然に身を任せ、プランも立てない。意図的なメッセージを入れようとすれば、対象者に「上から目線になってしまうから」である。

 そして重要なのは信頼関係だ。今回は、患者たちに「撮ってもいいかと聞いた時、たいてい受け入れてくれた。数人には断られたが説得はしなかった」。カメラの存在はプレッシャーを与えるので、「いやだ」と言える雰囲気を徹底して心掛けた。

 撮影後にはきちんと映画やDVDになると伝えるのも大切なことだ。だから、患者たちは撮影に意欲的で出来上がりにも満足していた様子。それは、「尊重して撮影してくれたと感じたからではないか」と監督。その姿勢の対極に位置するのが、患者の顔をモザイクで隠すやり方。「私は絶対にモザイクはかけない。人間として見ていないことになるからだ。顔を撮らない映画は映画ではない」と言い切っていた。

 リンダさんによると「効率重視の中で人間的な精神医療が減っているのはフランスも日本と同じ」とのこと。だからこそ監督はパリの精神科医療について第2、第3弾の作品に挑む。また、生き生きとした人物たちに出会えるのが楽しみだ。


ゲスト / Guest

  • ニコラ・フィリベール / Nicolas Philibert

    「アダマン号に乗って」監督

  • リンダ・カリーヌ・ドゥ・ジテール / Linda Carine De Zitter

    臨床心理士、プロジェクト・アドバイザー

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