2022年08月05日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「救急医療における銃創対応と日本の現状」大友康裕・東京医科歯科大学教授

会見メモ

安倍晋三元首相銃撃事件で、銃撃された傷(銃創)への対応の難しさが明らかになったが、そもそも日本では銃創の治療を経験した医師は数少ない。救急・災害医療、外傷外科の第一人者で、銃撃、爆破に対応する医療の整備に尽力してきた大友教授に、救急医療における銃創など外傷診療の現状と今後の課題を聞いた。

 

司会 浅井文和 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

救命率向上へ治療を集約を

村川 実由紀 (共同通信社科学部)

 東京医科歯科大学の大友康裕教授は救急医であり、銃創治療の専門家だ。日本では銃で撃たれた患者は少なく、治療の経験がある医師はあまりいない。大友教授は昨年の東京五輪・パラリンピックの開催前には日本外傷学会の特別委員会の長として銃や爆弾テロなどの緊急時に備えて診療指針を作成した。今回、安倍晋三元首相が銃撃事件で亡くなったことを受けて登壇した。

 事件当日の安倍元首相については、「どんなに良い治療をしても助からなかった」とみている。銃で撃たれて心肺停止となった人を病院の救急室で開胸して止血などをすることで救命できたケースはある。大友教授は海外のガイドラインを例示し、安倍氏の容体ではこの治療をしても救命できる可能性がある対象には分類されないと説明した。

 日本の外傷治療の医療提供体制はここ20年ほどで良い方向に変わってきたのだという。かつては不備もあり、自身が中心的に関わった2001年の調査では防ぎ得た死が外傷での死亡例の約4割に上ったことが明らかになった。その後、医師の研修体制を整えて助かる命は増えてきた。ただ、まだ改善できる点はあると考えている。

 たとえば銃創治療は国内で多くても年間で数十件しかない。専門性のある医師が不足している問題を解消するには地域ごとに外傷センターのような拠点を決めて治療を集約すれば良いと考えている。人口240万人当たりに約1カ所の開設を希望しており、東京都だと5カ所ぐらいになると想定している。特定の医療機関が経験を積むことで救命率が上がると見込んでいる。他にもどういった課題があるのか明確化するために実態調査も始めている。

 会見の中ではテロ対策の話題にも触れた。日本は地震などの災害の対応は他国に比べて進んでいるが、「テロ対策は遅れているといわざるを得ない」と警鐘を鳴らした。


ゲスト / Guest

  • 大友康裕

    東京医科歯科大学教授、東京医科歯科大学病院救命救急センター長

研究テーマ:救急医療における銃創対応と日本の現状

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