2022年07月06日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「エネルギー・円安・物価ー2022年下期経済見通し」(5) 熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミスト

会見メモ

第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんが、円安と日本をテーマに、日本経済の現状と今後求められる政策などについて話した。

 

司会 中山淳史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

円安逆手に「民」の底力を

林田 晃雄 (読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)

 悪い円安」の打撃を警戒する声がちまたにあふれるなか、熊野英生氏はあえて円安メリットを最大限に生かして難局を乗り切ろうと呼びかけた。輸入コスト高による「悪いインフレ」におびえる多くの企業経営者への、「叱咤激励」と受け止めた。

 1㌦=135円前後の円相場について、本来より25%も割安だと分析した。さらに、日米の金利差や国際的な資金の流れを踏まえれば、「1㌦=145円くらいの円安が起きてもおかしくない」と予想した。

 ロシアのウクライナ侵攻で、資源高、食料高に拍車がかかり、輸入に頼る日本は貿易赤字の拡大に直面している。原材料コストの上昇は企業の利益を圧迫する。それでも日本企業の経常利益はコロナ前を上回る水準に急回復している。なぜなのか。

 熊野氏は「コロナで下げた賃金を元に戻していないから利益が増えた。人件費削減は利益を出す有効な成功体験になっている」と解き明かした。その結果、「円安による輸入物価の上昇で実質賃金が下がり、家計を圧迫した」と解説した。

 賃金が上がらないと、消費は低迷して日本経済が回らず、円の価値はさらに下がる。悪循環である。

 会見では、低賃金で利益を絞り出す企業行動に苦言を呈する一方で、「来年4月の賃上げに岸田政権の命運がかかる」と述べ、賃上げの確たる実績が長期政権につながるとした。

 円安にどう対処すればいいのか。円安の当初は貿易赤字が拡大し、やがて貿易黒字化する「Jカーブ効果」に期待を寄せ、「企業のアニマルスピリットが旺盛なら、円安メリットが出てくるかもしれない」と、企業にピンチをチャンスに変える奮起を促した。訪日外国人のインバウンド需要や電子商取引も円安メリットを生かす余地が大きいと指摘した。苦境の打開へ、「民」の底力が試される。


ゲスト / Guest

  • 熊野英生 / Hideo KUMANO

    第一生命経済研究所首席エコノミスト / chief economist, Dai-ichi Life Research Institute

研究テーマ:エネルギー・円安・物価ー2022年下期経済見通し

研究会回数:5

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