2022年05月20日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「科学技術立国」(3) 豊田長康・鈴鹿医療科学大学学長

会見メモ

『科学立国の危機』(東洋経済新報社、2019年)の著者である鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長が、豊富なデータから日本の研究力低下の実態を解説した。

10兆円規模の大学ファンドについては「公的研究資金の純増は前例がない。効果に期待したい。ただ対象が一部の大学に限られるのは残念」。

研究力回復に向けては研究者、研究支援者のポストを増やし研究時間を確保すること、研究環境を改善することが不可欠と強調した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

人と時間を確保し研究力回復を

増井 のぞみ (東京新聞社会部科学班記者)

 日本の研究力が低下したと言われているが、本当なのか。豊田長康・鈴鹿医療科学大学学長は、論文の量や質などの膨大なデータから次々と、本当だという証拠を示す。中でも、論文の質と量を掛けた国際競争力が「日本は2004年ごろを境に断崖絶壁を転がり落ちるように低下した」という折れ線グラフが衝撃的だ。米国並みから急落し、直近の19年は急伸した韓国に迫られている。

 では、どういう理由で、日本の研究力が低下したのか。カギは、論文の量を決める要因であるFTE(フルタイム相当)研究従事者数だ。研究者と研究支援者の合計に、研究時間を掛けたものだ。研究支援者のうち、研究者の指示に従って研究や実験をする職種「テクニシャン」は、日本の研究者1人当たりの数が先進国で最も少ない。国公私大とも、教員の社会サービスの時間が増え、研究時間は減っている。

 日本の論文の量が少ないことは、このFTE研究従事者数がそれ相応であることで説明できるという。政府が支出する大学研究費も、多くの国が増やしている一方、日本は20年以上ほぼ横ばいで先進国最低だ。

 日本の研究力低下の最大の要因は、04年度の国公立大学の法人化と選択と集中、教員数の計画的な削減と推定する。「大学間での選択と集中は十二分になされており、全体を上げる効果はほとんどない」

 いま、政府が進める10兆円規模の大学ファンドに対しては「大学への公的研究資金の純増に期待している。ただし、対象が一部の大学に限られることは残念」。仮に運用益が3千億円あっても、政府が支出する大学への研究資金は韓国と比べ5千億円以上少ないのが現状だ。

 日本の研究力回復に向け「世界と戦える研究環境か考えたらいい。研究者や研究支援者のポストを増やし、研究時間を確保して、研究環境を改善することが前提だ」と訴える。


ゲスト / Guest

  • 豊田長康 / Nagayasu Toyoda

    鈴鹿医療科学大学学長 / President, Suzuka University of Medical Science

研究テーマ:科学技術立国

研究会回数:3

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