2021年06月18日 18:00 〜 19:00 オンライン開催
五輪開催に関する医療専門家による記者会見

会見メモ

政府の新型コロナウイルス感染症対策に助言をしてきた独立行政法人地域医療機能推進機構の尾身茂理事長ら感染症、医療の専門家有志26人が、東京オリンピック・パラリンピック大会開催に伴う感染拡大及び医療逼迫を招かないための提言をまとめ、6月18日、組織委員会、政府に提出した。

有志のうち尾身茂さん、釜萢 敏・公益社団法人日本医師会常任理事、中澤よう子・全国衛生部長会会長、中島 一敏・大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学学科教授、前田秀雄・東京都北区保健所長、脇田 隆字 ・国立感染症研究所所長、押谷仁・東北大学教授、西浦博・京都大学教授の8人が会見し、提言に至った背景、提言の概要などについて話した。

※押谷さん、西浦さんはリモート参加。

司会 伊藤雅之 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 

写真左から中島さん、中澤さん、尾身さん、脇田さん、前田さん、釜萢さん、押谷さん、西浦さん

 

オリパラ開催に伴う感染拡大リスクに関する提言

 

 


会見リポート

応援の盛り上がりと日頃の対策/矛盾したメッセージとなる危険

館林 牧子 (読売新聞社論説委員)

 新型コロナウイルス対策を政府に助言してきた尾身茂氏ら感染症対策の専門家有志が、東京五輪・パラリンピックに向けた提言を公表した。

 尾身氏は「規模と注目度が通常のスポーツとは違い、人の流れや接触機会が増えるリスクが大きい」と指摘。深夜の試合や応援イベントで観客らが盛り上がる映像が流れると日頃の対策と矛盾したメッセージとなり、「警戒心が緩み、協力が得られにくくなるリスクがある」とした。

 これらの分析から、提言ではまず、無観客での開催が望ましいとした。その上で、仮に観客を収容する場合は①現行の大規模イベント開催基準よりも厳しくする②観客は開催地の人に限る③感染拡大・医療逼迫の予兆を探知したら無観客にする――などを考慮するよう求めた。

 また、開催前であっても感染拡大の予兆を察知した場合、早急に強い対策をとることを政府に要望した。

 「無観客」を推奨する提言は遅かったのではないか。そんな趣旨の質問も出た。尾身氏は「観客を入れると決めた際の次善の策も提示した。専門家はリスクを客観的に評価し、政府に伝える責任がある。どう採用し、実行するかは政府と主催者の責任だ。リスクを十分認識してやっていただきたい」と述べた。

 尾身氏らは昨年、この場で会見を開き、政府と専門家の役割について見解を示した。専門家は感染状況を分析・評価して政府に提言し、政府が政策決定の責任と国民に説明する義務を負うというものだ。

 それから1年。政治と科学の役割分担はどうだったのか。国立感染症研究所の脇田隆字所長は「明確でない場合もあったが、徐々に改善はしてきている。リスク評価の独立性を確立できるよう、流行を大きくしない決意でやっていきたい」とした。

 会見に臨んだ各氏からは、感染対策に協力する市民への思いも聞かれた。中島一敏・大東文化大教授は「共感、納得の上にお願いしながらやってきた。五輪・パラリンピックを前にしても、これを継続することが大事だ」と話した。

 翌日、政府や大会組織委員会などでつくる5者協議は五輪観客数について、現行の大規模イベントに準じる基準で合意した。ただ、今後の感染状況によっては無観客も含め対応を検討するという。

 専門家は引き続き科学的な見地から忌憚なく分析、提言を行い、政府、組織委はそれを真摯に受け止め、万全の対策をとることを望みたい。


ゲスト / Guest

  • 尾身茂 / Shigeru Omi

    独立行政法人地域医療機能推進機構理事長 / President, Japan Community Health care Organization

  • 釜萢敏 / Satoshi Kamayachi

    公益社団法人日本医師会常任理事

  • 中澤よう子 / Yoko Nakazawa

    全国衛生部長会会長

  • 中島 一敏 / Kazutoshi Nakashima

    大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学学科教授

  • 前田秀雄 / Hideo Maeda

    東京都北区保健所長

  • 脇田隆字 / Takaji Wakita

    国立感染症研究所所長

  • 押谷仁 / Hitoshi Oshitani

    東北大学教授

  • 西浦博 / Hiroshi Nishiura

    京都大学教授

研究テーマ:新型コロナウイルス

研究会回数:68

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