2020年07月30日 14:30 〜 15:30 10階ホール
著者と語る『アジア経済はどう変わったかーアジア開発銀行総裁日記』 中尾武彦氏

会見メモ

「アジア経済はどう変わったか―アジア開発銀行総裁日記」(中央公論新社、2020年6月)の著者であり、前ADB総裁(現みずほ総合研究所理事長)の中尾武彦氏が登壇し、執筆の意図や財務官、ADB総裁時代の経験を振り返るとともに、今後の中国、アジアのあるべき姿について語った。

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

 

 

 


会見リポート

中国は改革開放路線に回帰を

大辺 暢 (日本経済新聞社NAR編集部)

 今年1月まで約7年間、アジア開発銀行(ADB)総裁を務めた中尾武彦氏は6月、本書を刊行した。会見では、民主党政権から第2次安倍内閣にいたる財務官時代を振り返り、国際機関のトップとして中国との政策協力を模索した日々、そしてアジア経済の展望を語った。

 「こんな大きな規模になる、銀行にしようということになるとは思っていなかった」。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)についての、中尾氏の率直な受け止めだ。中国側から構想を知らされたのは2013年。インフラ整備ファンドという当初の計画は、習近平体制の下、中国のグローバル・プレゼンスを高めるツールへと次第に変貌していく。

 3千人以上の職員を擁するADBに対し、AIIBの職員数はようやく3百人を超えたところ。それでもその行方は、世界的な注目を集める。

 だが市場経済を志向していた中国は、産業への国家関与を急速に強める。「中国は開放的な政策、市場志向の政策を取ってきていることによって豊かになってきた。それを損なうようなことは中国自身のためにならない」と中尾氏は警告し、改革開放路線への回帰を訴えた。

 中国の最近の動きは、戦前の日本のそれとも重なる。ADB総裁としてパラオやソロモン諸島を訪問し、戦争の犠牲を思い起こして呆然となった経験を紹介し、平和と安定の重要さを強調した。

 米中の衝突が激しさを増すなか、ともすれば、「米国か、中国か」という議論になりがちだが、アジア各国は「すごく歴史的な背景と伝統があって、独立を守りたいという気持ちが非常に強い。中国かアメリカか選ぶのではなく、それぞれが独立した」道を目指しているという。

 そしてコロナ後の世界経済について、アジアは「他の地域よりも強くなるだろう」と予測。自国第一主義が一時的には目立っても、「グローバル化の大きな流れは逆戻りしない」と分析した。


ゲスト / Guest

  • 中尾武彦 / Takehiko Nakao

    日本 / Japan

    前アジア開発銀行(ADB)総裁、みずほ総合研究所理事長 / Former President, Asian Development Bank / Chairman, Mizuho Research Institute Ltd.

研究テーマ:『アジア経済はどう変わったかーアジア開発銀行総裁日記』

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