2020年07月29日 17:00 〜 19:00 10階ホール
2020年度日本記者クラブ賞受賞記念講演会

会見メモ

日本記者クラブ賞を受賞した青野由利氏が専門記者として長年フォローしてきた科学報道を、特別賞のNNNドキュメント・シリーズを代表して、数多くの番組を制作してきたテレビ岩手の遠藤隆報道制作局シニア・報道主幹兼コンテンツ戦略室長が、これまでのドキュメント制作を語った。

 

司会 土生修一 日本記者クラブ専務理事・事務局長

 

※この講演会は、東京都内の新型コロナウイルス感染者急増を受け、会場には出席者なしで、インターネットによるライブ配信のみに開催方法を変更して行いました。


会見リポート

クラブ賞 青野由利さん

■科学記者魂を披露

 手の内を明かしてくれた講演会だった。自らが記者として自分にインタビューしたらと考えたそうで、安易な答えでは妥協しない記者魂を感じさせるスピーチとなった。

 科学記者のルーティーン、科学と社会をどうつなぐのか、科学記者への誤解、コラムの書き方…、どれも興味深かった。常に課題となるのは、分かりやすさと正確さのバランスをどう取るか。取材先の研究者に「正確な表現にこだわって伝わらなかったら書かなかったことと同じだ」と言ったことがあるそうで、自ら発した言葉の責任を取り続けた結果が、「科学と社会の接点」という贈賞理由につながったのだろう。

 あらゆることに科学的思考が必要だと考える青野氏からみると、科学と政治のギャップはあまりにも大きい。論説委員となって、政治の世界ではエビデンスのはっきりしない政策が平然と行われていることに驚いたという。東日本大震災後は、科学記者の責任を強く感じ書き続けた。新型コロナウイルス感染拡大の現状でも、情報が錯綜し、さまざまな専門家の意見が飛び交うなか、科学の不確実性を理解しつつ言葉を紡ぐ青野氏の姿勢から学ぶことは多い。

 本当は研究者になりたかったと語った青野氏だが、結果的には科学記者が一番合っていたのではないか。勝手かもしれないが、理系・同期の者として強く思った

会報委員 NHK出身 迫田 朋子

 

特別賞 NNNドキュメント 遠藤隆さん(テレビ岩手)

■系列局が対等に競い合う伝統

 日曜深夜の「NNNドキュメント」シリーズは、日本テレビ系の29局が共同制作している。地方局のベテランの遠藤隆さんが番組を代表し、講演したことからも、「系列局が対等の立場で競い合う」という「Nドキュ」の精神と伝統がうかがえた。

 年に2回開かれる「ドキュメント会議」では、各局のディレクターが泊まり込みで企画を検討し、議論を交わす。酒席での雑談が全国規模の取材に発展するケースもあり、テレビ岩手など6局が共同制作した「列島検証 破壊される海」(1996年)は、ギャラクシー大賞に輝いた。

 遠藤さんは「Nドキュ」を「系列局にとっての甲子園」と呼ぶ。テレビ岩手として初めて参加して以来、43本も作ってきた。中でも、昨年公開の映画「山懐に抱かれて」は、北上山地で酪農に生きる大家族を24年間追った記録の集大成版だ。

 これに先立ち、米国が1954年、太平洋のビキニ環礁で繰り返した水爆実験による被曝の実態を掘り起こした南海放送(松山市)の「放射線を浴びたX年後」をはじめ、テレビ新潟の「夢は牛のお医者さん」、山口放送の「ふたりの桃源郷」が映画化された。これらの継続的な長期取材は、地域に密着する民放ローカル局の強みだろう。

 遠藤さんは、戦争を取り上げるシリーズやヒューマンドキュメンタリーもこの番組の特徴に挙げた。民放ジャーナリズムの神髄ここにあり、とエールを送りたい。

読売新聞出身 鈴木 嘉一


ゲスト / Guest

  • 青野由利 / Yuri Aono

    毎日新聞論説室専門編集委員

  • 遠藤隆 / Takashi Endo

    テレビ岩手報道制作局シニア・報道主幹兼コンテンツ戦略室長

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