2020年01月17日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「米・イラン軍事的緊張の行方」田中浩一郎・慶應義塾大学教授

会見メモ

米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害で緊迫した米-イラン関係の背景と今後を田中浩一郎・慶應義塾大学教授が解説した。

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

すれ違う歴史観、行動原理

島崎 淳 (共同通信社外信部担当部長)

 米国によるイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の暗殺、イランによるイラクの駐留米軍攻撃やウクライナ航空機撃墜と、2020年は米イランの本格的な戦争の瀬戸際という緊張状態で幕を開けた。情勢はやや沈静化したように見えるが、現代イラン研究の第一人者である田中浩一郎氏は「エスカレーションを生む土壌は残っている。まだまだ危うい」と警鐘を鳴らす。

 

 米国とイランを巡る危機について、田中氏が指摘するのは常態的な対立構造だ。米国の「嫌イラン感情」の起点が1979年のイランでの米大使館人質事件だとするならば、イランにとっては1953年にCIAなどが画策し親米のシャーを復権させたクーデターにさかのぼる。「最初に誰が何をしたのか」という点では双方の歴史観に約四半世紀のズレがあるというわけだ。

 

 トランプ政権の登場以降、米イランのすれ違いは米国のイラン核合意からの離脱、制裁強化に至り、危険なレベルに達している。「イランの行動原理」は国際法にのっとった行動をしていると公には表明しつつ、裏で行動する場合は決定的な証拠を残さず「否定の余地」を残すというやり方だった。「ソレイマニは悪いやつ」だから排除するというトランプ政権の登場で、イランのこうした「戦略的あいまい性」が機能しなくなっていると、田中氏は分析する。

 

 英独仏3カ国が国連安保理制裁の復活に道を開く「紛争解決手続き」を発動し、核合意は風前のともしびの状態にある。米大統領選が本格化するにつれ、自己顕示欲の強いトランプ氏は対イラン強硬姿勢をキャンペーンに利用するだろう。「イスラム国」指導者バグダディ殺害から3カ月足らずで新たな事件が起きた。

 

 「4月ごろになってソレイマニ殺害という『おもちゃ』が使えなくなると、また何か狙うのでは」。その言葉が現実にならないことを祈るばかりだ。

 


ゲスト / Guest

  • 田中浩一郎 / Koichiro Tanaka

    日本 / Japan

    慶應義塾大学教授 / professor, Keio University

研究テーマ:米・イラン軍事的緊張の行方

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