2019年12月06日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの」(2) 渡邊啓貴・帝京大学教授

会見メモ

渡邊啓貴氏が「冷戦終結30年後の欧州――多極化する世界」と題して話した。著書に『アメリカとヨーロッパー揺れる同盟の80年』(2018年、中公新書)、編著書『フランスと世界』(2019年11月、法律文化社)など。

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

冷戦終結30年後の欧州、「親米自立」に動く

伊藤 努 (時事総合研究所客員研究員)

 「ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの」をテーマにした研究会の2回目は、フランスを中心とする欧州政治・外交が専門の渡邊啓貴・帝京大学法学部教授(東京外国語大学名誉教授)が「冷戦終結30年後の欧州」の歩みを多角的に紹介しながら、「多極化する世界」の現状と今後の展望を持論を交えながら語った。

 渡邊教授はまず、冷戦後30年の欧州や世界の現状を見るに当たって、冷戦時代末期の1980年代の国際情勢を振り返りながら、「冷戦終結の意味合い、あるいは解釈が米国と欧州では異なっていた」と指摘する。すなわち、米国にとって米国型デモクラシーの勝利だったのに対し、欧州にとっては緊張緩和政策や東西経済交流の延長として欧州統合の発展に生かそうとの考えが根底にあり、冷戦終結についての世界観で米欧で違いがあったとの見方を紹介した。1990年代以降、ポスト冷戦の国際秩序がさまざまに模索された中で、「米国の一極支配」「一極・多極併存」「多極構造」などの世界認識の変容を見るとき、その起点の冷戦終結に対して欧州的解釈と世界観があったとの分析、視点は筆者にとって参考になった。

 冷戦の主舞台となった欧州の現状を見れば、英国の欧州連合(EU)離脱の動きや反EUのポピュリズム(大衆迎合主義)の高まりなど、EU統合の求心力の後退とも映る事態が相次ぐ。これらを含め、欧州がこの30年間に経験してきたさまざまな危機(難民危機やギリシャ危機など)について、渡邊教授は「欧州統合はリアリズムの統合論」と見る立場から、欧州が目標とするデモクラシー(理想)の「代償」だったとして、独仏主導によるこれまでの取り組みをむしろ積極的に評価する。

 悲観論もある欧州統合の先行きに関しては、能力と目標のギャップに対する懐疑主義などの批判があることも承知しているとしつつ、「欧州統合の発展は危機と停滞の時期はあったが、前進しており、統合終焉論・統合崩壊論は誤りだ」と言い切っていたのが印象に残った。

 渡邊教授は会見の締めくくりで「多極化世界の欧州外交」を取り上げ、米国の影響力が後退し、中国・ロシアのプレゼンスが相対的に拡大する中で、欧州における「親米自立」の動きとその背景を紹介。欧州自らの価値観や利益に基づく国際環境の構築に不可欠な戦略的自立に向けた動きは、「行動の自由をどこまで担保できるか」という外交力の幅を広げる意味で、欧州と立ち位置が違う日本にも参考になるのではないかと力説した。


ゲスト / Guest

  • 渡邊啓貴 / Hirotaka Watanabe

    日本 / Japan

    帝京大学教授 / professor, Teikyo University

研究テーマ:ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの

研究会回数:2

ページのTOPへ