2019年08月20日 17:00 〜 18:30 9階会見場 ※10階ホールから変更しました
2019年度日本記者クラブ賞受賞記念講演会 金本麻理子・ディレクター、椿プロ代表取締役

会見メモ

2019年度日本記者クラブ賞特別賞を受賞した金本麻理子氏が、ドキュメンタリー制作への思いを語った。

 

司会 土生修一 日本記者クラブ事務局長

 


会見リポート

戦争が残す次世代への傷

伊藤 絵理子 (毎日新聞社情報編成総センター)

 日中戦争から太平洋戦争にかけ、戦地で精神疾患を発症した兵士たちを取り上げた番組「隠された日本兵のトラウマ~陸軍病院8002人の〝病床日誌〟~」(NHK放送)。これまで広く知られることのなかった戦争の暗い側面を丹念に描き出した労作だ。

会見で金本さんは、制作の背景にあった問題意識について「戦争が一市民をいかに巻き込み、傷を残すか。そしてその傷が次世代にどう連鎖していくかを描きたかった」と語った。

 日誌は、旧日本陸軍が極秘裏に設立した千葉県市川市の国府台陸軍病院で、ヒステリー(臓躁病)、精神分裂病(統合失調症)などの診断を受けた兵士の病状や経歴、聞き取りの内容が克明に記録されている。金本さんは膨大な記録をおよそ2カ月間かけてたどり、これまでの研究成果と併せ、戦場での恐怖、殺害行為や生き残った自責の念、軍隊での理不尽さなどで追い詰められた兵士たちの姿を浮かび上がらせた。

 番組ではさらに、精神障害兵士の娘や息子、家族の葛藤に迫る。時に人が変わったように暴力をふるう父に怯えたり、「家に戻りたい」と訴える身内を引き取れず長年葛藤を抱えたり、彼らの人生には大きな影が差していた。

 金本さんは会見で「精神障害兵士の存在は秘匿され、家族だけが苦しみを抱えてきた。病気の事実すら知らない遺族も多く、伝えていいか迷ったが、(遺族に)知りたいという気持ちが強かった」と明かした。番組では、「父の苦しみが初めてわかった」と涙する娘の姿を描いている。

 終戦から74年がたち、当事者に話を聞く従来の戦争報道は岐路に立っている。番組は、埋もれた資料の発掘や分析、遺族への丁寧な聞き取りを通じて、今も再生産され続ける戦争の傷痕に目を向けることの意味を教えてくれたように思う。


ゲスト / Guest

  • 金本麻理子 / Mariko Kanamoto

    ディレクター、椿プロ代表取締役

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