2019年01月29日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「ポピュリズム考」(1) 小田中直樹・東北大学大学院教授

会見メモ

 

『フランス現代史』(岩波新書)

小田中直樹教授(東北大学大学院HP)

 

司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

マクロンは統合欧州を守れるか

玉利 伸吾 (日本経済新聞編集委員)

 昨年秋から続く「黄色いベスト」運動の背景がよく分かった。自動車燃料税の引き上げ反対デモから始まったが、底流には、長年にわたる国民の不満がある。対応を誤れば、ポピュリズムの拡大を招き、欧州統合も危うくしかねないという。

 デモなどの直接行動は、フランスの伝統で、決して珍しくはない。ほぼ10年に1度、大規模な大衆運動が起きている。今回も、同様の動きとみていい。だが、これだけ長期化するのは異例で、マクロン政権の政治姿勢によるところが大きい。

 これまでの政権はどこかで妥協し事態を収めてきたが、現政権は違う。財政赤字や通貨安などを許さない「欧州統合のコルセット」がきつくなっており、緊縮財政を堅持せざるを得ない。これは大衆が求める福祉拡大とは折り合えない。富裕層重視のやり方も変わっておらず、大衆の反発が強い。意見を聞かない、妥協を嫌う、大統領の性格も影響していると推測する。

 不満の受け皿が、なくなったことも大きい。80年代以降、旧来の左派も右派も独自の政策を打ち出せず、労働組合も弱くなった。いらだつ大衆は、極右や極左の政党を支持するようになり、約4割を占めるまでになっている。

 信じられない数字だが、大衆は思想というよりも、反エリート、反緊縮ならどちらでもいいと考えているようだ。ただ、仕事がない、生活が苦しい中では、どうしても増え続ける移民に目がいく。大衆の不満が反移民につながり、ポピュリズム勢力を勢いづかせる恐れもある。

 社会保障などに配慮する「社会的欧州」の具体化など妥協策も必要と指摘する。そうしないと、デモはずるずる続くとみる。黄色い運動をどう収めるか――英国の欧州連合(EU)離脱、ドイツの政治情勢とともに、統合欧州の行方をみるうえで、欠かせない要素になってきた。


ゲスト / Guest

  • 小田中直樹 / Naoki Odanaka

    日本 / Japan

    東北大学大学院経済学研究科教授 / Professor, Graduate School of Economics and Management, Tohoku University

研究テーマ:ポピュリズム考

研究会回数:1

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