2018年10月04日 14:00 〜 15:00 9階会見場
著者と語る『紛争地の看護師』白川優子・手術室看護師

会見メモ

「国境なき医師団」に2010年から参加。これまで17回にわたり紛争地へ赴いた。著書は参加の動機から派遣先の活動までをまとめたルポールタージュ。高校生など若者に読まれているのが、特にうれしいという。紛争地の看護師として今後も「現場報告」を行っていきたいとも。

 

司会 石川洋(日本記者クラブ)

 

『紛争地の看護師』(2018年7月、小学館)


会見リポート

紛争地の手術室で見た過酷な現実 “伝える看護師”の訴え

熱田 充克 (フジテレビ出身)

 私がパリ特派員だったとき、混乱を極める中東やアフリカに入ると「国境なき医師団」の人たちとよく遭遇した。劣悪な環境で医療活動を続けていたスタッフたち。みんな「異常な場所で正常な空間を作ること」(1999年ノーベル平和賞の受賞スピーチ)に懸命に取り組んでいたのだ。

 白川さんが内戦続くイエメンに派遣されたときのこと。重症の妊婦を帝王切開して取り上げた赤ちゃんは息をしていなかった。すぐに手動の器具で肺に空気を送り続ける。そのとき彼女の脳裏をよぎったことは「この赤ちゃんがいまは蘇生できたとして、これからちゃんと育つことができるのだろうか? 新生児の専門医はいない。十分な施設もない。私がやっている救命措置は正しいのだろうか?」。

 これは怖い。人の命を救う看護師がその仕事に疑問を抱き、無力感にさいなまれる。日本ではあり得ない状況だ。

 白川さんは言う。

 「私たちにそう思わせてしまうのが紛争地なんです」

 空爆で家族すべてを失い、自分も片足を切断して「死なせて」とつぶやく女性。国境検問が通れなかったために病院に行けずに命を落とした少女。時限爆弾が破裂して手や足がつぶれてしまった少年たち――。自らが体験した、こうした過酷な現実をみんなに知ってほしい、悲劇を早く終わらせたいという強い思いから、白川さんは執筆を始めた。

 「国境なき医師団」が発信している英語やフランス語の現地報告は、日本の一般読者には伝わりにくい。一方、この本を読んだ日本の高校生からは「白川さんのような看護師になりたい」という声がたくさん寄せられているという。一時はジャーナリストへの転職を考えたが諦めたという白川さんは、この本で“伝える看護師”になった。

 私は「白川さんのような伝える人(ジャーナリスト)になりたい」という高校生も増えるといいなと思う。


ゲスト / Guest

  • 白川優子 / Yuko Shirakawa

    日本 / Japan

    国境なき医師団・手術室看護師 / operating room nurse, Médecins Sans Frontières

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