2018年02月01日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「朝鮮半島の今を知る」(1)木村幹 神戸大学教授

会見メモ

「『韓国は日本を重要視している』との前提はもう通用しない。ただ韓国は日本の対米影響力は気にしている」「五輪の南北合同チームへの世論の反発は政権の誤算」「韓国の進歩派は民族主義者の顔を持つ」。文在寅政権を歯切れよく論評した。

 

 

司会:五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

 

(下記の会見リポートは、李鍾元早稲田大大学院教授216日との統合版です)


会見リポート

直視すべき隣国の変化

澤田 克己 (毎日新聞社論説委員(前ソウル支局長))

 日本の外交・安全保障を大きく左右する隣国について、いまだに旧態依然としたステレオタイプがまかり通っている―。

 「朝鮮半島の今を知る」というテーマを設定した企画委員の思いは、そんなところではなかろうか。朝鮮半島を担当する記者の間では状況変化への認識が共有されつつあるものの、日本メディア全体での認識となると心もとないからだ。

 木村幹神戸大大学院教授は日韓関係、李鍾元早稲田大大学院教授は南北関係を主軸に韓国社会の「今」を論じた。

 共通するのは「時代が変わった」ということだ。

 まずは木村氏の取り上げた日韓関係を考えよう。

 韓国における日本の存在感は1990年代以降、低下し続けてきた。いまや「反日」が政治的効果を持つような時代ではない。

 李明博大統領(当時)が2012年に竹島へ上陸した時には支持率が数ポイント上がったが、3週間後には元に戻っていた。その傾向はさらに強まっており、今では対日外交が支持率に与える影響は「観測不能なレベル」(木村氏)になった。

 文在寅政権はその流れの中で、対日外交の展望を描く努力すらしていない。木村氏が「場当たり的」と評する文政権の姿勢は、対日外交の重要度低下を見せつける。

 慰安婦問題への対応が典型的だ。文大統領は2015年の日韓合意では解決していないと主張する。そして日本政府のさらなる謝罪を期待すると語りつつ、再交渉の要求はしないとも口にする。冷静に見れば文政権としての「見解表明」にすぎず、新たな対日要求ではない。

 木村氏は「さらなる外交努力をするつもりはない」という宣言だと喝破する。解決へ向けて動くべきは日本政府だという「丸投げ」だが、それでも運動団体の外に不満が広がるような事態にはなっていない。それが「今」の韓国社会の現実だ。

 李鍾元氏が取り上げた韓国社会の北朝鮮観も、日本では十分に理解されていない。

 李氏が紹介したソウル大の世論調査で興味深いのは「なぜ統一が必要か」という質問である。07年には「同じ民族だから」が50・7%だったが、16年には38・6%。逆に「戦争の危機をなくすため」が19・2%から29・8%になった。

 民族を理由にする模範解答より、脅威を取り除くという実利への傾斜だ。07年に11・8%だった「統一より現状維持」という人が16年には23・2%になってもいる。「最前線のリアリズム」(李氏)が示す安定志向だと言えるだろう。

 こうした隣国の変化を日本メディアはきちんと伝えられているか。常に自省する姿勢が求められる。


ゲスト / Guest

  • 木村幹 / Kan Kimura

    神戸大学教授 / Professor, Kobe University

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:1

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