2018年01月09日 13:30 〜 15:00 9階会見場
ロバート・ボイントン ニューヨーク大学教授 著者と語る『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』

会見メモ

『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

通訳 長井鞠子

 

『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』(柏書房)


会見リポート

アウトサイダーの視点、同じ目線で「拉致問題」に迫り、伝える

 取材・執筆にあたって、ボイントン氏は、「チャレンジは2つ」と考えたという。まず、拉致問題を全く知らない英語圏の読者にどう伝えるか。そして、この問題に関心が高い日本の読者にどう伝えるか

 

 取材の裏話は、ジャーナリズムの講義を聞いているようだった。

 

 ボイントン氏は、拉致被害者のうち、蓮池薫さんに手紙で取材を申し込み、提示された3条件のうち、2条件を断ったが、取材OKのレターを受け取った。2条件については、「謝礼は取材の信頼性を損なうことになるので払えない」、「いつ、どこにどういう形で載せるのかは、取材してもいない前から明示できない」と答えたという。

 

 蓮池さんとのやりとりで、「3条件目=拉致のことについては聞かない」を守ろうと、翻訳についてあれこれ質問し、「北朝鮮について良かったこと、楽しかったことは?」と聞いた瞬間、蓮池さんが「爆発」し、拉致について語り出す糸口になっていったというエピソードは、直接取材のダイナミクスと重要性を思い起こさせた。

 

 著書は、重層的でゴツゴツしており、ノンフィクションの面白さを満喫できた。インタビュー部分に加え、歴史や背景説明が新鮮だったのは、まさに、米国人が書いているからだと思った。

 

 拉致被害者を救い出すにはどうしたらよいか。この点についてボイントン氏のアイディアにすんなり賛同するのは難しい。氏は、「平壌にいるハイジャック犯4人を日本に帰国させ、刑事免責を与えてもよいから、彼らが持つ情報を吸い上げ、いかすべきだ」と主張する。しかし、「拉致被害者の家族が亡くなるのを待っている」という北朝鮮の長期戦略に対抗し、事態を打開するには、より大きな視点で戦略を動かす必要があるのは、事実だ。

 

 会見で最も印象的だったのは、ボイントン氏の「同じ目線に立つ」アプローチだった。「妻はコリアン・アメリカン」と聞いて、その訳が少し分かった。

 

 欧米と日本では、ジャーナリストの取材対象との距離の置き方、あるいは、市民団体内での情報コントロールの在り方は、異なる。しかし、上っ滑りに批判するのではなく、取材対象が立っている同じ地面に降りていって、同じ目線で相手を理解し、考える。ボイントン氏の取材姿勢こそが、難しいテーマに斬り込むことを可能にしたのだと思う。

 

 2018年第1号となった会見。記者・編集者の基本に立ち返りつつ、拉致、北朝鮮、安全保障の問題を考えさせられた。


読売新聞編集委員 河野博子

ゲスト / Guest

  • ロバート・S. ボイントン / Robert S. Boynton

    アメリカ / USA

    ニューヨーク大学教授 / Professor, New York University

研究テーマ:『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』

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