2017年06月22日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「文在寅政権と韓国社会」 高安雄一 大東文化大学教授

会見メモ

韓国社会の課題は「短期的には若年雇用、長期的には高齢化による財政悪化」。若年失業率は10%近いが「労組を基盤とする新政権が硬直的な労働市場を見直すのは難しい」。高齢化は2065年に40%を超え財政赤字のGDP比は160%にも。「財政破綻の可能性もある」

 

司会 山本勇二 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

老いも若きも苦労多し

出石 直 (NHK解説委員)

大学を出ても就職先が見つからない。出世競争に敗れ独立して飲食店を始めたものの、売り上げとわずかな年金だけではやりくりできない。韓国では、若者も高齢者も苦労が多いようだ。

 

15歳から29歳の若年失業率は10%近く。潜在的失業者も含めた体感失業率は実に22%に達している。背景には、解雇に労働組合の同意が求められ、ストライキの際の代替要員の雇用が禁止されているなど、硬直化した労働市場がある。企業は競争力を確保するために、人件費の安い非正規労働者を増やし新規採用を手控える。大企業と中小企業、正規労働者と非正規労働者の賃金格差が拡大し、大卒者は大企業や公務員に殺到、若者の就職はますます難しくなっている。

 

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、公共部門で81万人の雇用を創出し、非正規労働者の使用規制を強化するなどの政策を打ち出している。しかし一時的な雇用の創出は対症療法に過ぎず、非正規労働者の使用規制は雇用減につながってしまう。根本的な解決策は、解雇要件の緩和や賃金ピーク制の導入などなどによって労働市場の硬直性を解消するしかないが、労働組合を支持基盤としているだけになかなか踏み込めない。それどころか文大統領が掲げる労働政策は労働市場の硬直性をさらに強めるものが少なくないと、高安教授は警告する。

 

より深刻なのは急速な高齢化が招く低成長と財政の悪化だ。社会保障の歴史が浅く水準の低い韓国では、高齢者世帯の相対貧困率がすでに40%を超えている。ベビーブーム世代が高齢者となる2020年代からは急速に高齢化が進み、2065年には日本を抜いて先進国でもっとも高齢化が進んだ国になると推定されている。財政破綻を回避しつつ社会保障の水準を高めるためには、付加価値税の大幅引き上げなど負担増は避けられないが、国民合意を得るのは容易ではない。

 

若者の就職難、急速に進む高齢化、そして硬直的な労働市場。若者も高齢者も幸せに暮らせる社会を創ることができるのか、文在寅大統領の手腕が問われている。


ゲスト / Guest

  • 高安 雄一 / Yuichi Takayasu

    日本 / Japan

    大東文化大学 教授 / Prof., Daito Bunka Univ.

研究テーマ:文在寅政権と韓国社会

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