会見リポート
2011年03月02日
15:00 〜 16:30
10階ホール
研究会「大使に聞く インド」堂道秀明 駐インド大使
会見メモ
3年余のインド勤務を終え、2月に帰国した堂道秀明大使(現経済外交担当大使)だが「インドは国土で日本の8.6倍。州も28ある。3年居たんだからインドのことをよく知っているかと聞かれるのは、ロンドンにいてヨーロッパを全部知っているかと聞かれるようなもの」と言う。
その大きなインドが順調な経済発展を続けており、毎年ベトナム1カ国分の経済が生まれている。そこに日本人は4000人しかいない。しかし日本からの直接投資は10年で10倍になった。進出する企業も急増している。「インドは中国の改革経済への転換から13年遅れて改革に着手した。インドの現在が中国の経済発展の初期の状態なら、10年経てば日印関係は見違えるだろう」と展望する。
当時の谷内次官からインド行きを言われた時、日印関係と日中関係を比較した表を見せられたそうだ。「貿易、投資、旅行者、留学生、直行便など、当時はどの指標でも30分の1以下だった。今後、わが国にとって関係を発展させる余地が最も大きい国がインドだと言った谷内次官の言葉がいかに示唆に富むものだったかを実感している」と述べた。
司会 日本記者クラブ企画委員 高畑昭男
在インド大使館のホームページ
会見リポート
印との原子力協定 日本は正念場
高橋 弘司 (毎日新聞新聞研究本部)
堂道前大使が語ったインドの内実は、政治、経済面を中心に国際社会での存在感を強めるこの大国とつきあう難しさを実感させた。
堂道氏はまず、日本からインドへの直接投資が近年急増しているとしながらも「2国間関係をもっと発展させていかなければ」と訴えた。
だが、この国が抱える貧困、汚職、カースト制度など発展の阻害要因について質問が相次ぐと、「農地を取り上げられ、借金を抱えて自殺する農民が後を絶たない」などと明らかにし、「インドは非効率だが、民主主義がある国。『表は混乱し、中は安定』と言われ、中国とは逆だ」と力説してみせた。
注目されたのは、我が国と交渉中の原子力協定締結をめぐる発言だ。この協定は、核拡散防止条約(NPT)に加盟しないまま核武装を続けるインドに対する原発関連機器輸出を目指すものだ。わが国は「非核」政策放棄という外交転換を図るかどうかの正念場に立っている。
3年半の勤務を終えたばかりのインドについて堂道氏は「中国の核が(敵対する)自国に向いている限り、核を撤廃する考えはない」ときっぱり。また、「核保有国としてNPT体制に参加することはあっても、非核保有国としてはありえない」と“核の恐怖”に直面する国に特有の論理を解説した。
問題はそんな頑ななインドを相手にどう核武装に歯止めをかけられるかだ。堂道氏は「核実験を断行した場合には当然、協力停止が前提となる」と明言した。だが、核保有をめぐりインドと対抗する隣国・パキスタンのザルダリ大統領は2月来日し、「インドだけを重視するのは二重規範だ」と同様の協定締結を要求した。
会見後に起った福島第1原発事故を受け、原発輸出政策にブレーキがかかるのは必至の情勢だ。インドとの交渉見直しが迫られている。
ゲスト / Guest
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堂道秀明 / Hideaki DOUMICHI
駐インド大使 / Ambassador to India
研究テーマ:大使に聞く インド