会見リポート
2010年10月22日
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高原明生・東京大学教授「日米中」12
会見メモ
高原教授は尖閣沖事件で中国が見せた強硬姿勢の背景として、①中国社会の矛盾②昨年来の新しい外交方針③メディアに載るようになった激しい言説④内部の権力闘争の気配―――をあげた。社会については、経済成長にもかかわらず現状への不満と将来への不安が高まっている、と指摘した。特に、信仰を持つ人が増えている傾向があり、キリスト教プロテスタントの信徒が公認教会と地下教会あわせて1億人いるとの推定を紹介した。新しい外交方針は昨年7月、大使を集めた会議の胡錦濤主席演説で明らかになり、「周辺の地政学的戦略拠点を築く」といった新しい表現が目立つという。指導部内部の政治抗争に関連して、尖閣問題では温家宝首相ら穏健派が強硬発言を行う一方、軍部や石油に利権を持つ強硬派が逆に「やりすぎ」と批判している「ねじれ」に注目した。反日デモでは胡主席が掲げる「和諧社会」を批判するスローガンが登場していた点をとりあげた。日中関係の今後の課題では、排他的ナショナリズムの抑制、「自立平等共生」を共有の理念にした東アジア共同体、中国が「核心的利益」といった言い方をやめるよう日本が歴史の教訓を語る意義――などをあげた。
司会 日本記者クラブ企画委員 高畑昭男(産経新聞)
東京大学法学部・大学院法学政治学研究科ホームページの高原明生教授の紹介
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/about/professors/profile/takah...
会見リポート
中国の強硬姿勢の背景
加藤 青延 (NHK解説主幹)
高原教授によると、中国政府の強硬姿勢の背景には、まず、中国社会に渦巻く人々の不満への強い危機感がある。めざましい経済成長の一方で、4割近くの人が、過去5年間、給料が増えなかった。深刻な環境汚染や高齢化社会などへの不安から逃れるため、キリスト教など宗教にすがる人が、約1億人。これは、共産党員の7800万人を上回る数字だ。
不満のはけ口は、過激なナショナリズムという形にも転化したという。特に懸念すべき傾向として、高原教授が指摘するのは、昨今、中国のメディアに、かつては見られなかった激しい言説が数多く掲載されるようになったことだ。それは、中国政府の公式見解とは明らかに異なるものだが、中国世論に与える影響は、計り知れない。
高原教授は、中国の強硬姿勢の裏には、もう一つ、昨年半ばに打ち出された外交戦略の転換もあると見る。それは、鄧小平氏の遺訓ともいえる外交方針「韜光養晦(力がつくまでは爪を隠し控えめに振る舞う)」からの脱却をも目指すものだが、中国は、以来、この積極外交で、世界各国と次々と衝突し、ついに、日本ともぶつかり合うことになった。
中国外交にとって、この1年が、「annus horribilis(ひどい年)」となったことは、まさに高原教授の指摘通りだろう。世界の中で存在感を増す中国が、今後、どうすれば責任ある大国として国際社会から受け入れられるか、中国には今、何が求められているかを深く考えさせられた。
ゲスト / Guest
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高原明生 / Akio TAKAHARA
東京大学教授 / Professor,University of Tokyo
研究テーマ:日米中
研究会回数:12