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国民民主党副代表伊藤孝恵さん/子育ての視点 政治変える新風(坂田 奈央 東京新聞)2021年12月

 「伊藤孝恵さん、国民民主党新緑風会、一票」―。2020年9月、自民党の菅義偉氏が選出された参院本会議での首相指名選挙。議長が票を読みあげると、どよめきが起きた。党代表でもない1期の議員の名が呼ばれるのは、永田町では異例といえる。 

 

■心ないヤジが飛び交う

 

 驚いたのは議場の反応だった。「自分で入れたんだろ」「記録に残るのに何やってるんだ」―。心ないヤジが飛び交った。国会議員の女性比率は衆院で1割、参院で2割。男女比からして一般社会と大きく違う国会では、40代の女性議員を首相に真剣に推す一票も真摯に受け止められないのか、と。

 伊藤さん(愛知選挙区)とは、私が育休から政治部で復帰した17年8月に出会った。「どうもー!」。議員会館の部屋で出迎えてくれた明るい笑顔の向こうに、キッズスペースが見えて驚いた。永田町と子どもは無縁だと感じていたからだ。

 初当選は16年の参院選。出馬当時は3歳と1歳の子育て中で、「日本初の育休中の国政出馬」として注目された。党内外でそれをとがめる声もあったが、劣勢だった公示前の予想を覆した。出馬の契機は次女の出産だったという。医師から「耳が聞こえないかもしれない」と言われ、障がい児を取り巻く環境や法律を調べては落ち込んだ。どうしたら社会を変えられるのかと悩み、公募に手を挙げた。

 キッズスペースは待機児童だった次女のために作り、子連れで陳情に訪れる人などの憩いの空間にもなっていた。一方、1500件もの「意見」が来ていた。「神聖な国会に子どもを連れてくるなんて非常識だ」「子育てしながら政治家なんてできるのか」。明るさの陰で、両立に苦労する姿が容易に想像できた。それでも、「常識は変わる。前例を作ることが大事」と笑う姿が印象的だった。

 翻って、私は当時長女が3歳、次女が8カ月。なぜ、こんなに保育園探しに苦労するのか。なぜ、街でこんなに肩身が狭いのか。子どもと政治が遠すぎる。そう感じていた。そんな時に伊藤さんに会い、この人なら風穴を開けてくれるかもしれない、と思った。

 

■党派超え議連立ち上げ

 

 「党派を超えて子ども政策を議論できる場が欲しい」。そんな考えに私は強く同意した。早々と未就学児を育てる衆参の母親議員の数を調べ、一人一人を訪ね歩き、ベテラン議員も巻き込み、18年3月に立ち上げた「超党派ママパパ議員連盟」(会長・野田聖子こども政策担当相)は、今や約80人が参加する巨大議連だ。

 冒頭の一票を投じた寺田静参院議員はブログで理由をこうつづった。「(伊藤さんの)政治家としての生い立ち、子どものために社会を変えたいというところに心から賛同します。(略)政党や派閥に左右され、前例や慣例を重んじる今の政治において、私の行動を快く思われない先輩諸氏がいらっしゃると思います。(略)それでも私は、伊藤さんに日本を大きく変えていってほしい」。寺田さんは、その後の2回の首相指名でも伊藤さんに一票を投じた。

 変化は起きた。1度目のような議場のやじは消えた。2人へのやゆも減った。伊藤さんに感想を聞くと、こう返ってきた。「人はやっぱ、慣れるんだね」。政治はもっと変えられる。そう言っているように聞こえた。 

 (さかた・なお 2005年入社 政治部を経て 4月から経済部)

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