ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


リレーエッセー「私が会ったあの人」 の記事一覧に戻る

防災アドバイザー・山村武彦さん/酒場教室で「防災はロマンだ」(依光 隆明)2019年10月

 心が熱い人と話していると、こちらまでじわり熱くなってくる。熱を感じ、元気をもらう。

 防災アドバイザー、山村武彦さんと酒を酌み交わすたび、熱と元気をもらっている。お年は76歳。私より一回り以上も上だが、精神年齢はたぶん私よりも若い。テレビでおなじみの顔で、舌鋒鋭く気合を注入してくれる。

 「新聞もテレビも大本営発表を流してるんだよ。例えば国が被害想定を出すと、それをそのまま流す。数字だけが独り歩きする。大本営発表じゃだめだよ」

 

■母の言葉で防災の道へ

 

 防災を志したのは早大在学中だから、半世紀以上も前になる。防災の道に進むべきか悩んだとき、背中を押したのは亡き母だった。「やっている人もいない、文献もない」とこぼす山村さんにこう言った。「なら現場に行けばいいじゃない」。その言葉通り、山村さんはひたすら現場に足を運んで防災を考え続けてきた。公的な肩書はない。どこから給与をもらうわけでもない。いわば一匹狼で防災の道を切り開いてきた。

 引き続き酒場での山村語録。

 「人間、生きるってのは熱く生きるんだ。ロマンに生きるんだ。防災はロマンなんだ。人の命を救うってのはロマンなんだ」

 10年前に大病を患い、一時はもはやこれまでと思った。だからだろう、引き続き酒場語録。

 「人間は死ぬまでの暇つぶしなんだけど、一回こっきりの暇つぶし。だから、『現在全力』」

 山村さんと知り合ったのは2015年だった。朝日新聞にbeという別刷り紙がある。その編集部に異動したとき、決まり物の一つに「かしこく選ぶ」があった。バイヤーや専門家に会い、どんな社に何という商品があり、どこがいいかを聞く。炊飯器なら○○社の○○はこんなところがいい、○○社の製品はこんな特徴があると書く。

 どんな商品を選んでみるかと考え、「防災用品にしよう」と決めた。防災用品の良しあしは命にかかわる。少しでもいいものを持つ必要があるし、そのためには正確な情報が欠かせない、と思考を巡らせたのだが……。では誰に聞いたらいいかと考えて、はたと困った。

 いないのである。なにより災害現場を知る人でないといけない。加えて実際に商品を使い試しているような人、すぱっと商品名まで言える人。探しあぐねて唯一、行き着いたのが山村さんだった。

 

■山村さん講座、常設コラムに

 

 2017年に諏訪支局に異動したとき、長野版で月1回の「長野地震新聞」を始めた。一隅に常設コラムがほしいと考え、またも行き着いたのが山村さん。「山村武彦の実践的防災講座」として今も続いている。実践で役立つコラムとして人気を集めている。

 ちなみに「長野地震新聞」は私が以前いた高知新聞で始めた「高知地震新聞」のパクリである。高知地震新聞は静岡新聞がやっていた「地震新聞」のパクリ。いいことは積極的に見習ったほうがいいと考えてパクらせてもらった。

 会社には内緒だが、コラムの打ち合わせで山村さんに会うたびに一献傾けている。飲んでいて楽しいのである。具体的な話をしてくれるので、私のような素人にもよく分かる。体験を聞くだけで勉強になる。言葉に熱がある。

 さて、次はどこの酒場に誘おうか。

 

(よりみつ・たかあき 朝日新聞社諏訪支局長)

ページのTOPへ