ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第19回(北欧)社会保障(2018年6月) の記事一覧に戻る

BIは新たな社会保障か、バラマキか(団長・企画委員 NHK 竹田忠)2018年6月

取材団が訪れた6月は白夜の季節。夜の11時ごろまで空は明るく、街の人は長いアフターワークを楽しむ。恐れていた通り、慣れない取材団の中には本当に暗くなるまで延々とロケをして翌朝バテ気味になる者も(私のことです)。

 

フィンランドが国として初の導入実験に踏み切ったベーシックインカム(BI)。BIとは国民全員に生活できるお金を無条件に配るという夢のような話。貧困解消には手っ取り早いが働かなくなる恐れが最大の課題、と思っていたら、日本記者クラブの会見(2017年12月13日)でシウコサーリ駐日フィンランド大使いわく、目的はその逆で働いてもらうため。目からうろこ。では確かめに行こう、というわけで総勢11人の取材団がヘルシンキへ。

 

実験は2年間で失業者2千人が対象。最大のミソは月560ユーロ(7万円程度)の支給額。スイスで国民投票に問われ否決された月27万円と比べると低額。実験を仕切っている社会保険庁の担当者は「これだけでは生活は厳しい。プラスして働こうと思ってもらうため」と説明。受給者の一人でかつて大手新聞社に勤めていた男性は「今は記者としての安定した仕事が少ない。でもBIがあれば不定期の仕事をしながら記者を続けられる」と働く立場にとっての利点を強調。また最近定職に就いた別の受給者の男性も「職探しで不安な毎日を送る者にとって、失業手当のような負い目がないBIはとても重要だ」と話す。

 

つまりこれは失業手当と低賃金の補填を合わせた新たな手当と考えた方がよさそうだ。日本でも人生100年、生涯現役で働くことが求められる中、低賃金になった場合にどう下支えするかのヒントになるのでは、と思っていたら政府はもう次のことを考えているという。実験は予定通り年末で終了させ、今後はイギリスで行われているユニバーサル・クレジット(低所得層への給付を一本化する制度)などの検討をしているという。別の政策担当者いわく、失敗を恐れずにチャレンジすべき。ウ~ン、連立政権内での路線修正もあるとはいえ日本と違い転換が早い。

 

さらに彼我の違いを改めて認識したのがスウェーデンで取材した「積極的労働市場政策」。たとえ大企業であっても競争力のない企業は守らず(ボルボやサーブは外資に身売り)、労働者がよりよい条件で働けるように国が職業訓練などを行うというもの。守るのは企業か、労働者か。今まさに働き方改革で問われているものだろう。

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