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圧倒的な存在感 83歳のブラッドリー氏にインタビュー(軽部 謙介)2018年2月

ベン・ブラッドリー氏は映画「ペンタゴン・ペーパーズ」で主役の一人として描かれている。当時の肩書は米ワシントン・ポスト紙の編集主幹。メディアの大義を説きキャサリン・グラハム社主を支える。

 

ブラッドリー氏を意識したのは、ウォーターゲート事件を題材にした映画「大統領の陰謀」を見た時ではなかったかと思う。ニクソン大統領を辞任に追いこんだこの事件は、ペンタゴン・ペーパーズと同様、報道と権力が真正面からぶつかり合った。

 

「大統領の陰謀」にこんなシーンが出てくる。事件でスクープを連発していたポスト紙のボブ・ウッドワード、カール・バーンスタイン両記者がミスをする。結果的に誤報となった記事をめぐり、ニクソン政権はここぞとばかりに同紙を批判し抗議の投書も押し寄せる。

 

しかし、取材の指揮をとっていたブラッドリー氏は一言。

「あいつらを見捨てるな」

 

そんなブラッドリー氏にインタビューしたことがある。ワシントン支局長だった2005年6月のこと。ウォーターゲート事件で「ディープスロート」と呼ばれた同紙の取材源が33年ぶりに自ら名乗り出た。ネタ元が誰であるかをめぐっては様々な憶測があっただけに、米メディア界は騒然となる。インタビューしたのはそんな最中だった。

野太く、響き渡る声。大きな身振り手振り。当時83歳になっていたが、圧倒的な存在感に腰が引けた。

 

ブラッドリー氏がこう強調したのを印象深く覚えている。

「うちの記者たちがニュースソースの秘匿をずっと守ってきたことを誇りに思うが、ジャーナリズムに対する攻撃は増えている」

 

「ペンタゴン・ペーパーズ」も「大統領の陰謀」も、単にマスコミ人の活躍を描いた映画ではない。メディアを敵視する強力な権力者が登場したとき、ジャーナリズムはどうやって対抗し民主主義を守るのかという問題提起だ。

 

ブラッドリー氏は著書「A Good Life」の中でこう書いている。

「ペンタゴン・ペーパーズのあと、難しすぎて克服できないような問題はなかった」

 

鍛えられたポスト紙はその1年後ウォーターゲート事件に遭遇した。窮地に陥ったニクソン政権がマスコミ批判を強めたとき、ブラッドリー氏が二人の記者にこう言い渡すシーンは「大統領の陰謀」のラストを飾る。

 

「疲れているだろうな。でも家に帰って15分休んだら仕事に戻れ。守るべきは報道の自由だ。国の将来だ」

 

日本では、具体的な新聞社名をあげて攻撃する首相が一強を誇る。他社に「反日」というレッテルを張るメディアまで現れた。ブラッドリー氏の心意気を学ばねばと強く思う今日この頃である。

 

(かるべ・けんすけ 時事通信解説委員、元解説委員長)

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